太郎傘、次郎傘のお話 [2017年02月03日(金)]

 小学校から大学までに受ける授業の種類は、多分400を超えるのではないかと思います。たとえば期末試験の前になると、かなり詳細まで授業の内容を覚えていたはずなのに、時が立つと、はっきりとその内容を覚えている人はあまりないのかもしれません。逆にそれは、その内容が消化されて、それぞれの知識となって身についているということなのかもしれません。
 
 それに比べて、先生が授業中やその他の時間に話してくださったエピソードは意外に記憶に残るもので、昭和の卒業生が集まるとそういった話に花が咲きます。ここでお話する「太郎傘、次郎傘の話」も、覚えている人の多い話の一つです。大学の校舎のあちこちにある傘立てに入っている置きっ放しの傘を見ると、いつもこの話を思い出します。
 
(学内の傘立て)
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 思いがけず雨が降り出した時に誰でも使うことができるように、ある店の前に古い傘が2本置かれていました。駅の近くにある店なので、急な雨の日にはその傘が便利に利用されていました。そして次の日か、少なくとも2,3日後には、いつも2本の傘はそこに戻されていて、また、突然の雨の時には、他の人が借りていきました。ところが雨がしばらく降らなくなったある日、ふと傘立てを見ると、こんな張り紙がされていました。「太郎傘がいなくて、次郎傘が悲しんでいます」。古くなっても役に立っていた2本の傘。そのうちの1本が戻ってこなかったのです。でも、しばらくして戻ってきました、きれいに折りたたまれて、次郎傘のとなりに入っていました。そして張り紙には、「太郎傘が戻ってきて、次郎傘も喜んでいます。また一緒に皆さんのお役に立てます」と書かれていました。
 
 善意で傘を店の前に置いていた店主の思いも素晴らしいし、太郎傘に早く戻ってきて欲しいという気持ちの伝え方も、多分天日に干してきれいにたたんで傘が戻されたことも、心温まるものです。
 
 1月30日の読売新聞の夕刊に「傘の忘れ物2週間で処分」という記事がありました。東京都内では雨の日に1日約3,300本もの傘の落し物が届けられるのに、返還率は1%程度が続いているとのこと。それまで3か月だった拾得物の保管期限を2007年から、安価なものについては2週間での処分としたり、ホームページで落し物の検索ができるシステムを導入したり、着払いで自宅に配送できるようにしているのだそうですが、それでも保管場所はいつも満杯とのこと。ハンカチでさえ返還率は1.6%なのに、傘はかわいそうですよね。大量消費の時代となり、物への執着心が薄れ、探すより買う方が楽?だと思うのでしょう。
 
 少し前までは、忘れ物で保管期間を過ぎた誰も取りに来ない傘を置いている電車の駅もありました。初めのうち、傘立てにはたくさんの傘が置かれていますが、残念なことに、そこに返却する人も少なくなったためでしょうか、それとも、500円程度払えばどこでも傘が購入できるので、古い傘なんか使いたい人がいないからでしょうか、最近は置き傘をしている所も少なくなってしまったようです。
 
 皆さんの傘は学内のどこかに置きっ放しになっていませんか。古くてもまだ使えそうな傘が埃にまみれて傘立てに残っていたり、同じようなビニールの傘が何本も乱立していたりするのを見ると、この傘はきっと、はじめは喜んで使ってもらっていたに違いないのにかわいそうだなと思ってしまうのは、私だけでしょうか。
 
 バブルの時代に一度は姿を消したように思えた、物を大切にする日本古来の文化をもう一度取り戻したいと思いませんか。