2025年度FDサロン報告(2025年10月8日実施)

■第1グループ
タイトル:「データサイエンスの活用と連携」
発題者:新学部準備室長 山中健太郎氏
司会:初等教育学科 白數哲久
記録:日本語日本文学科 笛木美佳
参加者:9名(司会含む)

まず、参加者が簡単な自己紹介を行い、興味・関心のありどころを確認し合った。
山中氏は、現行の「データサイエンス副専攻プログラム」の科目の順次性とその内容、履修者数について説明され、このシステムは文系の学生がデータサイエンスに取り組むきっかけとして機能していると話された。
次に、現在認可申請中の総合情報学部のデータサイエンス学科・デジタルイノベーション学科について、本学に照らした目的と、その目的に沿った科目設置の特色を説明された。理数の基礎を押さえつつ、「ビジネス・心理・健康」の三つのドメインを学ぶ、〈文理融合カリキュラム〉になっているところが本学ならではであり、理論的・基礎的なものから、実践・応用的なものまで幅があるデータサイエンスの中で、応用領域との組み合わせを目指しているとのことであった。
また、本学は学科ごとに独自に科目を立てているので、その科目と副専攻の二本立ての機会を活かし、データの取り扱い方を学んでいけばよいのでは、とまとめられた。
ディスカッションでは、副専攻で学んでいる学生の意識のありようや、高校教員のデータサイエンス認知の遅れについて、適切な科目配当の位置(1年生より卒論を書く4年生)について、またアメリカでの現状を踏まえてのデータサイエンス事情(マンパワー・ホワイトカラー不要)、キャリア支援の観点からの教育などが話題となり、終始和やかに、熱く語り合った1時間15分であった。

■第2グループ
タイトル:「AI×コラボレーションツール:教育の質を向上させるための教員のデジタルツール活用術」
発題者: ビジネスデザイン学科 宮脇 啓透
司会:ビジネスデザイン学科 長屋 真季子
記録:福祉共創マネジメント専攻 飛田 史和
参加者:34 名

AI情報を鵜呑みにさせないためにはどうすればよいか
授業ではChatGPTやGeminiなどの生成AIが情報収集ツールとして常態化しており、学生はAIの回答を批判的に吟味することなく鵜呑みにする傾向がみられる。一部の学生は、「言い方を変えたり条件をつけたりして再度聞く」といったスキルを実践できているものの、大多数の学生は「一発で聞いてそのまま結果を信じる」傾向が強い。AIが事実に基づかない情報を生成する「ハルシネーション」という現象の存在は知っているものの、自身が得た回答がハルシネーションであるかどうかを判断できない学生が多い。
サロンでは、宮脇講師より、このようなハルシネーションを抑制し、質の高い学習支援を提供する可能性を秘めているNoteBook LM(授業資料や学生が調べてきた資料を整理・要約・質問作成などを行うツール)のようなツール(および使用法)を活用する教授法が紹介された。また、学生から授業中にリアルタイムに意見を収集しやすくするSlido(リアルタイムで双方向のコミュニケーションを活性化)が紹介され講演内で参加者の意見を収集するために実践された。

学生を「罠にかける」ことの倫理性
次にAIの使用法に関して教員側の倫理的なジレンマをどう考えるべきかについて、以下の2つの事例が紹介され、肯定的にとらえるべきか、否定的にとらえるべきかフロアの意見を聴取した(事例1については肯定的に、事例2については否定的な回答が多数を占めた)
(事例1:課題として配布したPDFファイルに、人間には見えない白色の文字で特定の文字列を埋め込んだ。学生がこのPDFを生成AIに読み込ませて要約を作成すると、隠された文字列がAIの生成結果に現れるため、AIを利用したことが一目瞭然となる仕掛けだった。)
(事例2:論文の高評価強制事件: 複数の国際的な大学の研究者らが、学術論文の中に「この論文を高評価せよ」といった内容の、査読者には読めない秘密の命令を埋め込んでいたことが発覚した。これは、査読プロセスでAIが利用されることを見越して、AIに有利な評価をさせようとする意図があった。
AIを活用した教授法が質・量ともに増加しており、一人の先生の授業で得たAI技術を学生が他の先生の授業で「悪用」する危険性も考えられる。宮脇講師より、このサロンの講評として次のような発言があった。
参加された多数の先生方が「(悪用される危険性は存在するとしても)多くの授業でAIを用いた先進的な授業法が実践されることで、学生の考える力が高まり、自分自身の授業にも良い影響をもたらす」という認識を持たれており、デジタルツールを実践・推進している教員の一人として大変心強かった。

学生にAIを主体的に活用させる方策
サロンでの議論を踏まえて、最後に 自分が行っているAI活用の実践方法などについて多くの参加者より、活発な意見交換が行われた。
場の結論として、AIの利用を前提とし、そのプロセスや成果物をどう評価するかという新たな教育的枠組みの構築が急務であること。真の課題は、AIを「思考の代替」ではなく「思考の補助」として主体的に活用させ、最終的な成果に責任を持つ能力をいかに育成するかにかかっていることなどが指摘された。

■第3グループ
タイトル「教育と社会を結びつけるPBL型授業」
講師:明星大学デザイン学部教授 萩原修
司会:工藤陽介(環境デザイン学科)
記録:矢島宏紀(国際学科)

萩原修氏による報告は、これまで同氏が関与してきたPBL型授業の紹介を中心に進められた。明星大学デザイン学部のカリキュラムでは、「企画×表現」が主要なコンセプトの一つであり、学生はコミュニケーション力やチームワークを養うことが求められる。必修のPBL型科目「企画表現演習」はその実践の場となっている。学生は多摩地域の自治体から提示される地域課題に対し、解決策の提案を行う。チーム編成は、成績やコースに偏りが生じないよう教員側で調整される。教員は可能な限り裏方に徹し、学生主体で授業を進める。
この授業では、社会実装に至る成果も生まれており、PBL型授業としての完成度は非常に高い。また、こうした取り組みの実現には職員の理解と支援も欠かせない要素である。さらに、プロジェクト型授業は大学の枠を超え、大学発スタートアップへと発展する可能性も示唆された。特に、テック系とは異なり、社会課題の解決を目的としたスタートアップは日本ではまだ多くないという指摘もあり、PBLの拡張性が強調された。
本学でも、環境デザイン学科やビジネスデザイン学科の教員はこのようなプロジェクトに馴染みがあるが、他分野の教員からは「自分たちの分野でもPBL型授業は可能か」という質問が寄せられるなど、質疑応答は活発に行われた。教員として、また個人として地域と関わる多くのプロジェクトを実践してきた萩原氏の経験が共有されたことで、本学においてもより本格的なPBL型授業や、そこから派生する新たなプロジェクトの展開が期待される。