2019年8月

100年間を語ること [2019年08月27日(火)]

〈日文便り〉

先日、親戚の100歳のおじいさんが亡くなったことを知った。
年に1、2回程ある親戚の集まりで会うその人を、
私は小さい頃から「おじちゃんまん」と呼んでいた。

おじちゃんまんは1919年生まれである。
1919年はヴェルサイユ条約が締結された年で、当時の首相はなんと原敬。
ちなみに有島武郎の『或る女』(私が最も好きな小説のひとつ)が、
『有島武郎著作集』にて刊行された年でもある。

高校時代、日本史の教科書を開き、1919年の出来事から現代までのページをつまんで、
その分厚さに驚いたことがある。受験生の私たちが、必死になって覚える近現代史を、
おじちゃんまんは実体験として記憶している。

おじちゃんまんに会うと、よく過去の話をしてくれた。
二・二六事件の日は雪が降っていて寒かったこと。
戦前、上野から神田までタクシーに乗る時、並んでいるタクシーの運転手に
運賃を交渉して回って、どのタクシーに乗るか決めたこと。
徴兵中は、敵の高度を言い当てて上官にほめられたこと。(実は直感で答えていたというオチ)
戦争の話でさえ、日常の些細な小咄のように話す(現実はどうだったかは別として)。

おじちゃんまんは独特なペースを持っていた。
マイペースといえばそれまでだが、それが個性というよりは
どこか「近代人」のペースのように感じられた。

一つだけ、心残りがある。それは、当時の文学について何も聞かなかったことだ。
私は大学生の時、日本の近代文学を専攻していた。
1919年生まれのおじちゃんまんの青少年時代には、太宰治、菊池寛、志賀直哉、
堀辰雄、江戸川乱歩などなど、近代文学を代表する多くの作家たちが、創作活動を行っていた。
そしてもちろん、私が卒業論文で研究していた横光利一もその一人だ。
私たちが今、書店に行って新刊を手に取るように、おじちゃんまんも
文豪たちの名作を新刊として手に取ったはずである。

一度、そのことを尋ねようとした。しかし、のどの奥がつかえたように聞けなかった。
私は近代文学が好きだし、そもそも本を読むという行為が好きだ。
本を読んでいると、一人なのに一人でなくなる。
時に自分が生きていることさえ、忘れてしまえるから好きだ。
それでも本当は、その「一体感」はかりそめであることも知っている。
特に、私が読む近代の作家で今生きている人はいない。
その「覆られなさ」に私はロマンを感じていたのだと思う。
「近代人」であるおじちゃんまんに話を聞いてしまうと、その均衡が破られてしまう気がした。
あの時ためらったことを、今とても後悔している。

大正、昭和、平成、令和。私なんかは想像もつかない、100年だ。
もしも私が100歳まで生きたとしたら、何を語ろうか。

(MR)

日本語教育能力検定試験 夏期講座が始まりました [2019年08月23日(金)]

〈授業風景〉

こんにちは!日文の植松です。
本日から日本語教育能力検定試験対策のための夏期講座が始まりました。

この講座はピアサポートTA制度の一環で、教師役の学生(3名)が分担して
昨年度の日本語教育能力検定試験の過去問を解説していきます。
講師役の学生には、どのように解説していくかについて
事前に個別フォローアップを行い、講座当日は学生主体で進めていきます。

日本語教育能力検定試験の合格率は23%前後と、難易度が高い試験です。
聞き手に分かりやすく説明すること、問題の周辺知識を整理することを通して、
知識の定着を促して試験の合格を目指します。
さらに、日本語教育の現場においてもその知識を活用して考えられるようにするために、
文法であれば具体例、教育的な側面であれば具体的事例を提示することにも留意しています。

今年は日文の4年生と、言コミ(言語コミュニケーション専攻)の大学院生が
講師役に手を上げてくれました!

講座は本日を含めて3日間です。
受講生の中には2年生もおり、来年度以降に受験を視野に入れているようです。
学年を超えて切磋琢磨して学ぶ場となれば嬉しく思います。

(植松容子)

至福の場所 ― 三省堂アネックスの思い出 ― [2019年08月21日(水)]

〈日文便り〉

皆さんも、日々、大なり小なり「幸せ」を実感しているだろうが
(もし実感が全く無いとしたら、とても生きては行けないはず)、
私の場合は「いま」「ここ」という「現在」であるよりも、
「過去」を思い出して「ああ、あの時は幸せだった」と感じる
「過去形の幸せ」のほうが、はるかに多い。

今月8月6日に、図書館でインターンシップをしている日文の
皆さんと、三省堂書店の神田本店へ、ブックハンティング
(去年までの「選書ツアー」)に出かけたので、三省堂の思い出を
書いてみたい。

上京して大学に入った私の一番の愉しみは、地方に無い大きな書店に
行って、本を眺め、探し、買うことだった。
そして最もお気に入りだったのは、神田神保町の三省堂の本店、
ではなく、すずらん通りをはさんで、その向かいにあるアネックス
(別館)だった。


三省堂書店神田アネックスの外観(『三省堂書店百年史』1981.8刊)

今は、カラオケ館になっていて、風情は全く消えてしまったけれど、
その細長い6階建ての1階正面の一番奥のコーナーには、幻想文学や
異端耽美の文学の黒い棚があり、田舎の書店では見られない本が、
たくさん、それこそ目も眩むばかり並んでいるのを見て、
都会に来たことを実感したものだ。
高校生の時に、泉鏡花と出逢っていた私は、このアネックスの書棚で、
さらに多彩な幻想文学の本を手に取っては、ますます、その世界に
魅了されるようになっていった。

とりわけ忘れ難いのは「薔薇十字社」という出版社の出していた本で、
澁澤龍彦や種村季弘や尾崎翠らを知り、また、久生十蘭という、
鏡花の水脈につながる稀有の作家を知ったのだった。
この出版社は1973年に廃業してしまったが、その当時買った本は、
今でも大切に持っているし、その後も古書店で(少々、値は高いが)、
少しずつ買い蒐めている。


種村季弘『薔薇十字の魔法』(薔薇十字社 1972.6刊)


久生十蘭『黄金遁走曲』(薔薇十字社 1973.5刊)

今思えば、このアネックスの1階の奥にたたずんでいる時の私は、
間違いなく「幸せ」だった。
授業の中で、よく私は「至福の過去」という言葉を使うけれども、
「喪われた過去」は、もう二度と戻らないからこそ「耀き」を増す。
その「耀き」を「恢復」しようとする「衝迫」が文学の本質であり、
泉鏡花の文学は、その典型だといってよい。

ネットで「薔薇十字社」のことを調べると、やはり愛好者も多く、
いろいろなサイトがあり、中に、当時刊行案内されながら出なかった
「幻の未刊本」のリストには、
三島由紀夫監修『泉鏡花戯曲全集』(全3巻)
というのがあった。
もし刊行されていれば、「天守物語」を高く評価し、「山吹」の上演を
望んでいた三島の―卓越した劇作家でもあった彼の―「解説」を
読めたはずだが、残念ながら、これも「幻」となった。
しかし、その内容に思いをめぐらせる愉しみは、今でも確かに残っている。
その「思い」において、喪われたものは、いつでも「甦る」のだ。
「過去」を振り返り、回想することは、後ろ向きの消極的な行為では
決して無い、と私が授業で繰り返し話すのは、この意味においてである。

以上のことを思い出させてくれた、図書館のブックハンティングの企画に
感謝したい。

(吉田昌志)

日本文化発信プロジェクト 留学生との意見交換会 [2019年08月06日(火)]

〈受験生の方へ〉

こんにちは。
日本文化発信プロジェクト担当の山本です。
このプロジェクトは、日本の伝統芸能の一つである狂言の魅力を
外国の方に伝えることを目的として活動しています。
この活動も今年で4年目となりましたが、毎年夏に留学生との意見交換会を行っています。
今年は8月2日に、長沼スクール東京日本語学校から6名の留学生の方と
引率の先生が、本学へいらしてくださいました。
当日の流れは、これまでの活動成果としてまとめた冊子を手引きに狂言鑑賞を行い、
その後、意見交換となります。

まずは互いに自己紹介をした後、プロジェクトの学生から、
狂言の概要と鑑賞する「附子」についての説明をしました。



その後、狂言「附子」を鑑賞してから、2つのグループに分かれ、
狂言についての感想やプレゼンの内容等についての意見交換を行いました。
今回の参加者は、皆さん台湾からの留学生でしたが、それぞれ気になるところは
違っていたようで、鋭い質問が投げかけられると、プロジェクトの学生は
懸命にメモを取りながら答えていました。



最後は全員笑顔で記念写真です。

長沼スクール東京日本語学校の方達をお見送りした後も、プロジェクト活動は続きます。
それぞれのグループでどのような話合いが行われたのかを報告し、
今年度の冊子作りに活かしていきます。いずれのグループでも、
留学生の方と率直な意見交換ができたようで、貴重な機会となりました。
プロジェクト活動にとって、通常の授業がない休暇中は、
できるだけディスカッションを重ね、新たな発信の形をまとめていく大切な時間です。
今年も秋桜祭でその成果を発表する予定ですので、楽しみにしていてください。

(YM)

オープンキャンパスのお知らせ [2019年08月06日(火)]

<受験生のみなさんへ>

みなさん、こんにちは! 日文キャラクターのさくらです。

いよいよ夏本番ですね!
今月は2回、オープンキャンパスを開催いたします。

日 時:8月17日(土)・18日(日) 10:00~15:00

★学科の企画★
学生による学科紹介
<8月17日(土)・18日(日)>
時間 10:45~11:00/13:45~14:00 ※同一内容
場所 1号館3階3S38教室

体験授業
日文のAO入試受験では、学科の体験授業を受けて
後日課題を提出することが必須となっています。

<8月17日(土)>
日本語どうぶつ図鑑
講師 須永哲矢 准教授
時間 11:10~11:50/14:10~14:50 ※同一内容
場所 1号館3階3S38教室

この動物の昔の呼び名は?そもそもこの動物はどうしてこんな名前?
動物の名前から、遥か昔の日本語の世界に迫ります。
いろいろな動物との出会いを重ね、「事例を集めて法則を見出す」という
日本語学の手法を紹介します。

<8月18日(日)>
『万葉集』梅花の宴
講師 烏谷知子 教授
時間 11:10~11:50/14:10~14:50 ※同一内容
場所 1号館3階3S38教室

令和の元号が採られた『万葉集』梅花の宴の序文の次には、
どのような歌の世界が広がっているのでしょうか。
厳冬に春の訪れを告げる梅の花。
1300年前に大宰府で梅の花を詠んだ人々の心を想像してみましょう。

学科ブースでは、学科の学びを紹介するパネルを展示、
教員・学生アドバイザーがお待ちしています。

――女子大学ってどんな感じ?
――日本語日本文学科ってどんな授業があるの?

素朴な疑問を何でもお尋ねください。
2回目、3回目の来場も大歓迎です♪

みなさんにお会いできることを楽しみにしています。

〈sakura〉