辞典で遊ぼう!

こんにちは。松田忍です。

今日は諸橋轍次〔もろはし てつじ〕著『大漢和辞典』の話をします。この辞典は通称「諸橋大漢和」という名前で親しまれておりますが、「大漢和」をつけずに、そのものずばり「モロハシ」というだけで多くの人に通じてしまう、数あるレファレンス本のなかでも最も有名な辞典の一つです。この『大漢和辞典』が出来上がるまでの苦難の歴史自体が興味深いものとなっておりますので、大漢和辞典記念室WIKIPEDIAで確認してみましょう。

もしゼミや授業で読まねばならない本の中に、知らない漢字が出てきて、それが電子辞書に載ってなかったとしても、すぐに先生のところに聞きに行ってはダメですよ。「ちゃんとモロハシは引いたの?」と言われてしまう可能性が大きいですからね。当然ながら昭和女子大学の図書館にもモロハシは入っておりまして、3階のレファレンスカウンターの向かって右側の棚に並べてあります。

さて、みなさんは常用漢字で一番画数の多い漢字は何かご存知ですか?それは「鬱」という漢字で29画です。しかし5万文字もの漢字を収録した諸橋大漢和からすると、29画などまだまだひよっこ、序の口もいいところです。たとえば常用漢字ではないですが、「」という漢字を皆さんは知っていますよね。画数自体は16画と多くはないのですが覚えるのはなかなか難しい字です。その「」も諸橋大漢和の手にかかると次のように進化します。


これで一つの漢字です。中国の古典に使われていた字を網羅することを目指して編纂された諸橋大漢和。実際にこんな字が使われていたんですね。画数は16かける2ということになりますから32画。気になる意味は「飛龍、又龍の飛ぶさま」と「おそれる」の二通りあるそうです。親子の龍?友達の龍?恋人の龍?いずれにせよ二頭の龍が寄り添って空を飛んでいく姿が目に浮かぶようです。しかしそれで終わらないのが諸橋大漢和。次のような字も掲載されています。


うーん、三頭ですか。もちろん画数は16画かける3=48画。意味は「龍の行くさま」だそうです。それなら①の漢字で代用できそうなものですが、もう少し龍が群れている様子を出したかったのかもしれませんね。三頭があるなら四頭もあるんじゃないでしょうか?あるのです。それがあるのがすごいところです。

 


こうなると16画かける4=64画。諸橋大漢和に掲載されている漢字のうち、一番画数が多いのがこの漢字となっております。気になるその意味は・・・。どうせ「龍のいくさま」とか「龍の群れるさま」とかでしょう?と思った人はちょっと早とちりです。実はこの漢字の意味は「言葉が多いこと」「多言」であると記載されています。実際見た目通りですよね。

 

おしゃべりな人をたしなめて、

お前はなんてなんだ。もう少し静かにできないの?

と昔の誰かがいったかどうかは定かではありませんし、その使い方であっているのかどうかも分かりませんが、昔の中国で暮らしていた人の遊び心が感じられる漢字だと思いませんか。

その他にも画数が多い漢字として以下のようなものが挙げてみました。現在ではどういう意味で使われていたのか分からなくなっている漢字もあるのですが、意味が伝わっている漢字についてはナルホドと思うところがありますよ。知りたくなってきませんか?是非、諸橋轍次著『大漢和辞典』を手に取って画数索引で調べてみてください。

※初投稿時には常用漢字で最も画数が多いのは「鑑」で23画であると記しておりましたが、2010年11月に常用漢字表が改訂されて以降は「鬱」で29画というのが正しい情報となります。お詫びの上訂正いたします。またご指摘くださいました方に感謝申し上げます。