「原典講読」で印刷博物館研修を行いました

西洋史の山本です。こんにちは。

今日は「原典講読」という授業を紹介します。「原典講読」は西洋史で卒論を書きたい学生向けの「プレゼミ」的な授業です。講義形式や個々の興味がある分野の報告、あるいは英語の輪読など、様々な形式で授業を行っています。

いずれにしても、学生の皆さんに注意するよう伝えているのは「原典」という考えです。歴史研究は「史料」をもとに行われますが、西洋史の場合はこの「史料」の伝来過程が非常に複雑です。例えば、古代ギリシアの著名な哲学者であるアリストテレス(前4世紀)の著作は一時期、西ヨーロッパではほとんど忘れられましたが、12世紀にアラブ世界からヨーロッパに再輸入されました(こうした現象を「12世紀ルネサンス」といいます)。よって、アリストテレスのテクストはギリシア語以外にアラビア語とラテン語があり、それが近世になると俗語(英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語等)に翻訳されます。その後、欧米で出版された「校訂版」をもとに「日本語訳」が作られ、古代の知が我々のもとにいたっているのです。この授業ではこうした「原典≒史料の伝来過程」を意識した授業を心掛けています。

偽アリストテレス「秘中の秘」を収めたアラビア語の写本(13世紀)

さて、昭和女子大学の歴史文化学科では「手で考え、足で見よう」をスローガンとして、教室・研究室のなかだけではなく、歴史文化の「現場」に行き、直接対象に触れて考える教育を行っています。先日はそうした活動の一環として「印刷博物館」(東京都文京区)での研修を行いました。

まず学芸員の方から、印刷博物館の概要や主要な展示品に関する説明を受けました。印刷博物館は事業主体である凸版印刷株式会社が100周年記念として2000年に開設した比較的あたらしい博物館であり、それゆえにいくつもの先進的な試みをしているとのことでした。キーワードは「ヴィジュアル・コミュニケーション」で、狭義の印刷に限定されない様々な視覚的な情報伝達のあり方を広く一般に紹介されています。

展示品については、著名な「ハンムラビ法典」(レプリカ)や世界最古の現存印刷物である「百万塔陀羅尼」、そして「グーテンベルク聖書」などについて説明をしていただきました。学生たちは熱心にメモを取り、また積極的に質問をして、学芸員の方を感心させておりました。

展示品の説明を受ける学生たち(学芸員の方は楔形文字をすべて読むそうです!)

その後、印刷博物館の売りであるVRシアターで、「マチュ・ピチュ:太陽の聖地」を観賞させていただきました(なんと貸切で!)。マチュ・ピチュといえば「インカ帝国の空中都市」として著名な世界遺産ですが、複雑な地形や建築物の役割などがよく分かる素晴しい映像でした(マチュ・ピチュは現在、空撮が禁止されているということで、現地でも体験できない内容でした)。

最後は博物館内の施設である「印刷の家」で、活版印刷の体験実習を行いました。今日の学生の方は「活版印刷」といっても、ピンと来ないと思います。これこそグーテンベルクが15世紀に発明し、オフセット印刷が普及する1950年代くらいまで主流であった印刷方式です。鉛、錫、アンチモンの合金で鋳造された「活字」movable typeを一つずつ広い集め(「植字(ちょくじ)」といいます) 、指定された文章の形に整え(「組版」)、印刷機で印字します。学生たちは自分たちの作品を作り上げた後も、施設内にある19世紀の印刷機や様々な活字を興味深く観察していました。

「植字」に挑戦する学生(かつての植字工は3秒に1つの活字を拾っていたとか!)

末尾ながら、学生に貴重の経験をさせていただいた印刷博物館の方々、とりわけ学芸員の中西保仁さまには、厚く御礼を申し上げます。