開催日:2022年6月15日(水)16:30~17:30
場所 :グリーンホール(オンライン同時配信)
テーマ:「新高等学校学習指導要領の本格実施とこれからの高大接続」
講師 :荒瀬 克己 氏(独立行政法人教職員支援機構 理事長)
本講演では、2022年度入学の高校一年生から対象となる新高等学校学習指導要領と、その取り扱い説明書とも読み解くことのできる、中央教育審議会による答申「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜」(2021年1月26日)についてお話頂いた。概要は下記の通りである。
個別最適な学び
昔も今も学ぶことが大事であることに変わりはないが、「学び方」は時代とともに変化する。より変化が激しく、複雑で予測困難とされる現代社会において、子供たちの資質や能力を確実に育成していくために新学習指導要領の着実な実施は重要であるが、それは学び方の再構築である。
答申のタイトルにもある「個別最適な学び」に込められているのは、学びに学習者の視点を取り入れることの重要性だ。個に応じた指導とは、指導者側からの視点のみで行うことはできず、学習者側の視点を得ることによって可能になるという視点の変換が、今回の新学習指導要領の一つのポイントである。「本当にこの生徒にとっての学びになっているか?」を問うことは、正解主義や同調圧力からの脱去にもつながるだろう。
一方で、「個別最適な学び」によってそれぞれの学びが孤立しないようにすることも大切である。そのためにICTを活用しながら、主体的・対話的・協働的な深い学びを実施していくことや、教員個人だけでなく、学校が組織としての教育力をつけていくことも重要である。教育とは、「人は学びによって成長する」ことを皆が信じているからこそ成り立っている。教師も成長する姿を見せていかなければならない。
大きな子どもではなく、小さなおとなへ
体験を言語化することが成長につながるとされてきたが、コロナ禍で体験自体が減少し、体験そのものが変容している。そうしたなかで、大人になるとはどういうことか?を考えるにあたり、学校教育において一般的な定義とはやや異なる意味合いを持つ用語として「キャリア」を紹介する。それは、「人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ね」とされている(「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育のあり方について」中央教育審議会答申、2011年1月31日)。
ここでは状況に与えられるものも含め、社会のなかで様々な自分の役割に気づき、それを果たしながら人と関わり、自分らしい生き方を実現させていく過程そのものをキャリア発達として位置付けている。言い換えると、生徒が自ら将来の進路を選択・計画し、就職または進学をして、さらにその後の人生を決定していく力をつけていくことである。
新学習指導要領にある「探究」とは、まさしくそうした自分で考え、実践することの重要性を体験し、その過程で生まれる気づきや疑問を大事にすることを目指している。「探究」の始まりは、誰かの真似でもかまわない。自分が何をどう考えたかの記録をとり、それらを俯瞰し、評価できる力をつけることが、学び方を学ぶための取り組みとしてまずは大事なことである。生徒が自らの学習状況を把握する「メタ認知」や「自己調整能力」とも呼んでいる。
教員の評価とは、そうした生徒の学びをサポートするための応援でなければならない。生徒たちの自己肯定感を育むことも大切である。一人一人の存在を認め、「自分は何かの役に立っているだろうか?」「ここにいてよいのだろうか?」の答えに生徒自ら近づいていけるようにサポートすること、気づきを生み出す支えが、教員の評価なのだ。評価の観点とは、教員と生徒の間で共有されているべきものでもある。
全体を通して、社会の状況に合わせて生徒それぞれが自らの学び方を身につけ、学び続ける人を育てるための新高等学校学習指導要領と答申の方向性が示された。柔らかな言葉や具体例によって説明される様子がとても印象的で、大学教育との接続についても多くの想像が喚起させられる内容であった。時間いっぱいを使っての講演となり、質疑応答は割愛された。