日時:2025年6月18日(水)15:30~16:30
場所:グリーンホール
講演者:益川 弘如 教授(青山学院大学 教育人間科学部 教育学科)
演題:「学習科学の知見を生かした授業設計とAI技術の活用」
今回お招きした益川先生はアクティブラーニングの先駆けとして知られる知識構成型ジグソー法の開発と普及に尽力された方である。本講演では、講義型の授業であっても学生自らが学びを深めていけるような授業方法を紹介いただき、講演内で参加者が体験することで授業設計に活かせるような実践的な内容でご講演いただいた。
以下が概要である。
1) まずは認知科学の知見から良い学びと言い得る学びの特徴を確認した。学習科学から見た「良い学び」とは以下の特徴を持っている。
・可搬性(Portability):テスト以外で日常や実社会でも使える
・活用可能性(Dependability):安心して納得感をもって応用可能
・発展的持続性(Sustainability):次の学びにつながる
2)過去にも機械を使った学習は行われていたが、初期のAI教育(ティーチングマシン)では「答えを与える」ことに重点を置いていたため以下の項目が育てられなかった。
・主体性:問いを自ら立てる力
・対話性:他者とのやりとり
・深さ:意味理解の深まり
計算などの処理能力や正誤の判断が重視された方法では主体的で深い学びはできないことがわかる。
3)静岡県の高校の日本史授業でのジグソー法実例を紹介いただき参加者で体験した
課題:「あなたが戦国大名なら、どこに城を築きますか?」 を下記の手順で行う。
・学習者は、軍事・政治・経済の3観点から資料を分担して読み、グループ内で専門家として情報共有(エキスパート活動)
・別のグループでそれぞれの資料内容を教え合い、最適な築城場所を再検討(ジグソー活動)
・授業前後で意見や根拠の変化を比較し、学習の「深まり」や「視点の広がり」を可視化
高校生の授業後の感想では「普段の学習よりも理解できた」という声や「普段はコミュニケーションに消極的だが人の意見を聞こうという気持ちになった」など学びが深まっている様子が見えた。事実・知識として覚えるよりも役割を与えられグループ内で考えを共有することで情報を活かすことを楽しめる。また教員側は学習の深まりや視点の広がりを評価することが重要な点である。
4)学びの原理を踏まえてAIの活用方法を考えることが必要である。
重要なふたつの学びの原理
・建設的相互作用(Constructive Interaction):一人よりも複数人での対話が理解を深める
・理解の社会的構成モデル:自分の経験→相互作用→教科書的理解へと深化する
学生持っている知識と学習した内容が結びつくことで深い学びになる。それを結びつけるには、考えたことを言葉にする必要があるため対話を通した知識構成が有効である。
・鳥取の高校の生物の授業での事例(動画で紹介)
細胞の働きや役割をスポーツの役割に準えて同級生に説明している。
この事例からもわかるように対話型の授業で学びの深まりを支援していけると良いのではないか。
・AI活用の可能性
学生が持っていない属性の立場にAIを擬似的に設定して対話するなど、自分を相対化し他者との違いを客観的に理解するためにAIを活用できれば有意義なのではないか。
1)~4)の内容で本公演では参加者には
・学習者が自ら考え、対話し、知識を再構成するプロセスが重要
・グループワークの「効果の可視化」や「学びの変化の追跡」も大切
・AIで教えるのではなく、問いを持ち、学び合う仕掛けとして活用すべき
といった、授業設計をしていくうえでの重要な示唆が投げかけられた。時間いっぱいの講演となり質疑は割愛となったが、授業設計を考える上で有意義な講演となった。