<日文便り>
上海交通大学の呉保華先生が志賀直哉の処女作の一つ、童話「菜の花と小娘」(大正8年)を題材として講義をして下さいました。
「菜の花と小娘」あらすじ
山で仕事をしていた小娘は、夕方家路についた時、たった一輪他の花から離れた所に咲いていた菜の花に呼びかけられます。
「仲間のいる所に連れて行って」と頼まれた小娘は、菜の花を連れて川沿いの道を下っていきます。
小娘のほてった手にぐったりした菜の花を、小川に放ち、小娘は生気を取り戻した菜の花を追ってふもとまで走り、ふもとの村の仲間のところに植えてやるのです。
【呉先生のご講義】
この作品には「花ちゃん」という明治30年代に書かれた草稿があります。
この2つを比較すると言動の違いから、<花ちゃん>と<小娘>の人柄の違いや、<菜の花>との関係生の違いが鮮やかに浮かびあがるのです。
草稿では、2人は古い友達同士のような対等関係だったのに、処女作(初出)では対等とは言えない…など。
その裏には作者の環境変化が絡んでおり、長年作者が解決し得なかった<同情>の問題を、菜の花を幸せにしてやるという形で解決したのです。
この講義を聴講し、刺激を受けた学生たちには質問や意見がたくさん。
その一部を紹介します。
◆花ちゃん(小娘)と菜の花の関係が、草稿と初出では異なっているという話があったが、菜の花のイメージの違いが両者の関係に変化をもたらしているのではないかと思った。
◇草稿では、さらに友情が深まり仲良くなってハッピーエンドだという感じでした。初出では、ハッピーエンドだけど、同じ立場になったり、仲良くなったりはしませんでした。菜の花は菜の花の、小娘は小娘の世界で生きていくという自然の摂理が書かれているように思われました。
◆志賀直哉を読んだきっかけ、研究しようと思ったきっかけを知りたいです。
◇今回の呉先生の講義を聞いて、海外でも日本の文学をこんなに研究している方もいることを知り、嬉しく思いました。私は中国の文学のことなどは全然詳しくないので、国の違う文学に私も触れてみたいなと思いました。
(FE)