一人文学館

〈日文便り〉

先週、春分の日に、一人で日本近代文学館へ行ってきました。(個人的に)
日本近代文学館では、今月30日まで「新世紀の横光利一」と題して、
新感覚派として活躍した横光利一の自筆原稿の数々が展示されていますが
なんとそれだけではありません。
春分の日には、新感覚派映画連盟と衣笠貞之助監督によって製作された
「狂つた一頁」が上映されたのです!
卒業論文で横光を取り上げた私としては、これはぜひとも行かなくてはなりません。
ある先生から案内をいただいた私は、その日のうちに、席を予約して待ちわびていたのでした。

そして当日。うららかな晴天のもと、文学館に向かいました。
まずは展示ブースに足を運ぶと、人の多さに驚きます。
老若男女問わず、皆真剣な表情でパネルや資料を見つめていました。
新資料含めて様々な展示資料がありましたが、私が特に感動したのは、
卒論で取り上げた「家族会議」の自筆原稿です。
この作品は何の前触れもなく「やがて~」と、普通冒頭では使わない副詞からはじまります。
あまりにも唐突で、読み手は不思議な気持ちになるのですが、
活字で見ても、自筆で見てもその妙な感覚は同じでした。

展示を見た後は、お土産として「機械」と「純粋小説論」のクリアファイルをゲットし、
いざ映画の時間です。
この映画は無声映画のため、今回は弁士と楽士のお二人がつきました。
内容は、精神病棟を舞台とし、現実と夢(狂気?)が断続的に繰り返されるため、
理解するのがなかなか困難でしたが、とても興味深いものでした。
映像はもちろん白黒ですが、めくるめく場面転換の連続は、カラーにも勝る何かがありました。
弁士の方によると、世界各国の弁士に「日本の無声映画で何を弁じたいか」と聞くと、
9割の方々が「狂つた一頁」と答えるそうです。
はじめて公開されたのが1926年なので、90年以上経っても
人を惹きつける力がこの映画にはあると思います。

一人カラオケ、一人焼肉、一人ファミレスなど
最近はいろいろなお一人様がありますが、
たまには一人で好きなもの、例えば文学にふけるのも幸せのひとこまです。

(MR)