〈日文便り〉
「古典」という言葉から皆さんが連想する作品は何でしょうか?
いろいろあると思いますが、『百人一首』を思い浮かべるという人も多いのではないかと思います。
競技かるたを題材にした漫画『ちはやふる』は実写映画化もされ、人気を博しています。
今年7月には世界初の英語版百人一首かるたも発売されました。
百人一首かるたの英語版?と思う人もいるかもしれませんが、
実は『百人一首』の英訳の歴史は古く、幕末に遡ります。
初めて英訳されたのは1865年。以後、さまざまな英訳が出版されてきました。
漫画『ちはやふる』もバイリンガル版が出版されています。
私が担当している授業「歌ことば歌ごころ」では、さまざまな和歌の技法や歴史を学んだ後、
『百人一首』を取り上げています。
授業では「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣干すてふ天の香具山」(持統天皇)の
英訳にもチャレンジしてもらいました。
学生の皆さんの感想を紹介したいと思います。
・授業では「春過ぎて夏来にけらし」の歌を英訳しましたが、ただ言葉を訳すだけではその歌の表す景色、そしてそれを見た作者の心を伝えるような文章にすることが難しく、改めて五七五七七という短い文の中にこれだけの表現を詰め込む和歌の奥深さに驚かされました。
・「天の香具山」をどう訳すか。日本語で「山」と言われ、また「天の」という強烈な修飾が付くと、「そびえ立つ山」というイメージになるが、実際の香具山は標高152.4mで、山どころか丘。授業で紹介された英訳の中には「hill」と訳したものや、「Mt.Amanokagu」と訳したものがある。後者だと字面に沿う形になる。現実の風景をとるのか、字面をとるのか。それが問題だ。ちなみに私は富士山を手本にして「Mt.Amanogkagu」と書いた。
・和歌が英訳され、外国の人々にも親しまれていることを知り、英訳された和歌が、外国の人々が日本の歴史や魅力を知るきっかけになり得ると思った。
後期の「歌ことば歌ごころ」でも、百人一首の英訳の問題に触れます。
百人一首は勿論、古典作品の翻訳などに関心がある人は是非受講してみてください。
(TN)