〈受験生の方へ〉
あれは、去年の秋、私のもとに、一通のエアメールが届きました。
「さっちゃん~ごきげんよう。七海です。何度かメールしたのですが、
うまく届かなかったので手紙にしました。今私はニューヨークで物流の仕事をしています。
さっちゃんと約束した通り「記憶」「物語」を学ぶため留学、そして卒業後三井物産に入り、
7月からニューヨーク勤務です。7月7日、七夕、必ず思い出すのが、あの七夕読書会。
よしもとばななの「ムーンライト・シャドウ」はニューヨークにも持ってきました。
あの日から、私は人にとって、記憶、そして、物語とはなんなのか考え続けています・・」
かつて高校教師だった私の最後の教え子からの手紙は、あの「七夕読書会」を
鮮やかに蘇らせてくれました。3・11大地震が発生した、あの年の7月7日のことでした。
不安いっぱいでスタートした高校3年4月始業式、私は語り始めました。
「一年間一緒に学ぶ仲間たちと、一緒に何かを続けるってどう?」、生徒達からは猛烈な拍手。
それを受け「私の話を聞いてください」プロジェクトについて話し始めると
「おもしろそう~」の声があがりました。これは朝のホームルームを使い、毎日一人が
「私の話を聞いてください」と、今、私が興味関心を抱いている社会のコトを仲間に説明し、
その中で自分の思い・考えを語るものです。素材は新聞・ネット・雑誌なんでもOK、
紹介した素材は週の終わりに一枚のプリントにして配布し、各自じっくり読み込むという
シンプルな試みです。拍手をうけ「では、今日は私から」とスタート。
「私の話を聞いてください。今日、私が皆さんに紹介したいのは、今朝のこの新聞記事です。」
と藤原信也さんのエッセーを紹介。『先日、主宰するウェブマガジンに、ルターの「たとえ明日
世界が滅びようと、わたしは今日林檎の木を植える」という言葉を掲載した。
「読んで涙をぼろぼろこぼした。仲間と『こういう世の中だけど、前向きに生きていこう』
と話し合った」というメールが来た。過剰反応かなと思ったが、肩書を見てハッとした。
フクシマの高校生からだった。』
ここから始まった「私の話を聞いてください」に夢中になった生徒たちからリクエストがでました。
「先生、今度みんなで読書会したいです。
一つの小説を真ん中において、みんなで語り合いたいです」
その声に答え、開催された、7月7日の「ムーンライト・シャドウ」をめぐる「七夕読書会」。
七海さんの手紙は次の言葉で終わります。
「あの七夕読書会は単なるイベントではなく、新たな学びの<冒険>でした。」と。
受験生のみなさん、「新型コロナウイルス禍と向き合う」こんな時こそ、本を読んでみませんか?
世界をみる新たな「まなざし」は、きっと、あなたの力になります。
(AO)