ちょっと長いけれど、読んでください!
日本で最大の歌人の集まりである日本歌人クラブと、日文のコラボ企画「歌合を楽しむ」が開催されました。歌合(うたあわせ)は、歌をよむ「方人(かたうど)」が左右の二組に分かれ、和歌の優劣を競う遊びです。左右の組には、「念人(おもいびと)」がいて、その組の歌の良さをコメントします。会場に集まった人たちは、念人のコメントを聞いたあと、よいと思った方の歌に手を挙げて参加します。最後には、「判者(はんじゃ)」が判定します。
研修会では、まず、日文の鵜飼先生の講演「歌合に親しむ ―競う心と判る心」が行われました。
鵜飼先生の講演:なごやかに進みました
歌合の歴史や平安時代や鎌倉時代の作品の中に現れる歌合などについての知識を蓄えてから、さあ、実際の歌合です。
今回は、3番の歌合が行われました。
方人・念人・判者が勢ぞろい
★1番目の題は「恋」
左方 国際学科2年 藤澤さん
君撮りし桜並木をみにゆけば視線と画角は少し違って
右方 大学院文学言語教育専攻2年 鄭さん
電話果て夜のしじまにふた開けてバニラアイスの甘さ君めく
みなさんは、どのような情景が広がりますか?
念人からは次のようなコメントがありました。
藤澤さんの歌は、「君」が撮った写真と同じ場所に立ってみたら、その画角が違っていることを詠んでいる。「君」と「私」の身長の違い、短い時間だけ咲く桜を見に行く「私」の「君」への思いが感じらる。また、「君」は最近では、恋人ではなく「推し」かもしれない、とも。鄭さんの歌は、「夜のしじま」の静けさと、バニラアイスのふたを開けるという動作の対照性、さらにバニラアイスの濃厚さが、その人への思いを表現している。
★2番目の題は「地球」
左方 日文1年 前田さん
青い春限りがあると知ったからこの星よずっと青いままで
右方 日文4年 鵜沼さん
同じ星で背比べしている私たち宇宙(そら)からは青と緑に溶けて
前田さんは「青い春に限りがあると知ること」自体に、若い感覚があること、この青さと地球の青さを重ねていることの新しさを感じる。鵜沼さんの歌は、今世界では「どんぐりの背比べ」のような争いが起こっているけれど、もっと大きな視点から見れば、地球に溶けているようなものだという大きさを感じる。ふたりとも平和を詠ったものですね。
★最後は、歌人クラブの中央幹事お二人の作品です。
左方 大森悦子さん
はつなつの臓(わた)のひかりよ球磨川に鮎のふたつが泳いでいたり
右方 古谷 円さん
はつ夏の光をマリアの眼に点じ山下りんの画業澄みゆく
みなさんはお二人の歌をどのように読みますか?
★判者の判定は、1番:左方 2番:右方 3番:左方でした。
学生たちは、この数日、頭の中でぐるぐるとことばを選び、勇気を出して方人として参加しました。相手方からは、するどい指摘もありましたが、それもまた、自身の栄養として吸収できたようです。
最後に学生からの感想を。
★藤澤さん
短歌づくりは義務教育で少しやった程度だったのでとても難しいものだと感じていましたが意外とすっとできました。歌材を探して身の回りの物をみると面白いものや考えが見つかることがあり、短歌づくりを通して毎日が楽しく感じることができました。また、自分の気持ちを短歌として表現するとき、何が一番伝えたいことか、どう表現すれば適切に読み手に理解させられるか、を考えるため日本語の面白さや言語化の面白さを感じました。
今回の歌合は全体的に非常にレベルが高い印象でした。学生の短歌は若者らしい内容で共感しやすく親しみやすい印象のものが多い一方、歌人クラブの方々の短歌は少ない語数なのに深い物語を感じさせ、内容だけでなく文法や言葉の選び方や音の響きなども緻密に考えられていました。短歌の複雑さや歌人の方の洗練されたことばの使い方は非常に勉強になりました。
歌合は自身の作った短歌を自他チームから批評される緊張感ある競技でしたが、他の人と自分が感じたものとは違う物語を連想するので、「そんな視点があったか!面白い!」と感じましたし、批評の場面でもっとこうしたら良くなる、という意見をもらえることで、自分の短歌が一段上になる感じがして、とても面白く思いました。
当初短歌で自分の気持ちを表現するのは難しそうだと思いましたが、自分が何をどう感動したかを見つめるため、時間がかかるほど自分を知ることができました。これからも短歌づくりを趣味としていこうと思いました。
★鄭さん
日本歌人クラブの皆様、来場くださった皆様、未熟な私の歌を発表する機会を設けていただき、また多くのご意見とご指導を賜りましたこと、深く感謝しております。俳句を中心に創作を始めていましたが、和歌は今回が初めてで不安もありました。しかし、温かく見守っていただき、大変励みとなりました。方人として参加された皆様の歌は、いずれも思いが込められており、非常に素晴らしく、多くの学びを得ることができました。
「歌合」は勝敗を決する場ではありますが、完成した歌に優劣をつけることの難しさも感じました。客観的な基準はあるものの、最も大切なのは、読み手の「心」をどれだけ動かすことができるかではないかと感じております。その意味で、今回の「歌合」における方人の皆様の歌はいずれも深く心に響くものでした。
雅の世界を体験するため、あるいは形式の美しさに惹かれて詠む方もいらっしゃるかと思いますが、私にとって詩を書く理由は、自らの思いを伝えることにあります。伝えたい思いがある限り、これからも詩を書き続けていきたいと考えております。今後とも皆様とともに成長していけましたら幸いです。
★鵜沼さん
初めて短歌をつくり、歌人の方々に添削していただいたり、参加者の方々に論評していただいたりと、貴重な経験をすることができました。
講演では、歌合せが、単に歌の上手さを競う場でなく、結果が政治的な立場にも影響しうるものであったことを知り、驚きました。実際に参加してみると、歌の情景を読み取る力に加え、相手の意見に的確に応える対応力や対話力が求められるなど、教養と実践的な能力の両方が求められる非常に難しい一面があると分かり、その人の器量が表れることを実感しました。一方で、歌合せにおいての一番の魅力は、一つの歌に対して、多様な視点で解釈を行い、意見を交わし合う点にあると考えました。参加を通して、短歌を愛する方々とお話しする機会が沢山でき、歌合せが世代や立場を越えて楽しめる遊びになることを感じました。今回は敗れてしまいましたが、互いに意見を交わす時間や結果を待つ緊張感は、とても楽しく、印象に残っています。これからも短歌を作ること、そして短歌を論評し合うことを続けていきたいです。
方人、念人、判者のみなさんと
(嶺田明美)