こんにちは。古典文学担当の山本(晶)です。
今回は私の研究テーマである馬瀬狂言の今についてご報告します。
2026年9月20日の日曜日に、久しぶりに伊勢市の馬瀬町を訪れました。毎年、町内の公民館で行われる秋祭りでは馬瀬狂言が上演されます。その調査、撮影のための来勢です。
今年は、伊勢神宮の式年遷宮のお木曳(遷宮のための御用材を奉納する民俗行事)の年で、公民館では、お木曳の写真が展示され、ビデオ上映会も行われていました。このお木曳関連の行事は、何回かにわたって行われるもので、その様子を具体的に知ることができる展示写真は貴重なものでした。また、秋祭りのプログラムの初めは、御木曳の時に歌われる「本木遣」と「松前」の披露があり、広場に組まれた櫓の前で、子ども達による木遣りの歌い声が高らかに響きました。
さて、お目当ての馬瀬狂言の番組は、「鬼清水」「腰祈り」「樋の酒」の3番で、いつもより1番多い上演でした。馬瀬では「鬼清水」という狂言は、大蔵流や和泉流では「清水」という曲名で知られています。主人に水汲みを命じられた召使いの太郎冠者は、水汲みをしたくないので、清水で鬼が出たと主人に嘘をつく話です。
「腰祈り」は修行を終えた孫の山伏が、久しぶりに祖父を訪問し、その曲がった腰を法力で治そうとする話です。法力が効きすぎて、祖父の腰は伸びたり縮んだりと大騒ぎになります。
この「鬼清水」「腰祈り」の2曲は、馬瀬でよく演じられる定番曲ですが、「樋の酒」は、現在の会員の一世代前でも演じられていない、久しぶりに復曲されたものでした。馬瀬狂言保存会には、幕末の弘化4(1848)年~大正7(1918)年までの63種の番組を所収した『狂言番組扣』という資料があります。それを紐解くと、「樋の酒」は6回の上演が認められるので、昔から馬瀬で演じられていた曲と言えます。お酒が大好きな太郎冠者と次郎冠者は、主人に別々の蔵に閉じ込められて留守番するように命じられます。酒蔵にいた太郎冠者は、蔵にあったお酒を空けて飲み始め、それを知った次郎冠者が飲みたがり、考え出した策がこの写真です。
今回は、手元にあった台本をもとに、「棒縛」(二人の酒好きの冠者が同じように盗み酒をする話)を参考にしながら舞台の形を作ったとのことでしたが、それでも見所は曲によって違うものなので、工夫を重ねての舞台であったと思います。
今回は、この曲を含めて3曲とも、ベテランと若手の演者の組み合わせで、見応えのある舞台でした。伝統芸能の継承の難しさは、どの地域でもよく聞く話ですが、今回のような復曲上演への挑戦は、保存会全体の芸の向上に繋がるものだと思います。次の舞台は、伊勢市民芸能際(10月26日、場所:いせトピア)です。更に磨きの掛かった演技を楽しみにしています。
(山本晶子)