<総合教育センター長インタビュー>
先回は、学生のプロジェクトを取り上げる予告をしていたのですが、その前に学部長シリーズの番外編として、総合教育センター長の井原奉明先生に話を聴くことにしました。総合教育センターは一般教養科目、語学、教職科目を管轄し、全学生が必ずお世話になっているところです。
■プロフィール
小原: 恒例になっていますが、まず先生の専門分野と研究について教えてください。
井原: 私は哲学のなかでも、言語哲学を専門に研究しています。日本の哲学研究では、一般的には過去の高名な哲学者について研究することが多いのですが、一方で過去の哲学者を師として、その人の追究した道をたどりながら、自分も思考し研究を進める手法もあります。私は後者の手法によって研究を進めています。私の場合、哲学者のウィトゲンシュタインを師としています。この人は元来、「素人」哲学者として独自な研究を進めた人ですが、その説は多くの研究者に影響を与えています。
私は、昔から「私」「他者」「世界」「言語」などに関心があったのですが、現在は「私」についてウィトゲンシュタインの考えた道をたどりなら、研究しています。今まで、言語学、現象学、日本の哲学、そして仏教思想など色々なものに関心を持ってきましたが、現在の研究対象にこれらの異なる知見をぶつけるとまた新しいものが見えてくることがあり、これまでずっとこの研究手法を続けています。
小原: 私はウィトゲンシュタインの名前を聞いたことがある程度の知識しかないのですが、哲学にも色々あるのですね。論文や著書を読み、それについて深く思索するというスタイルの研究ですね。先生の研究の醍醐味はどういったところにありますか。
井原: 研究のなかで色々考えたり、調べたりしているうちに、ふっと気づく、わかった!と実感することが時々あります。突然サーッと靄が晴れていく感じなのですが、そこがおもしろいところです。一生懸命考えている時に何気なく手に取った本を読むと、思いがけないヒントに出会う瞬間があります。「天使が降りてくる」や「天使のご褒美」という表現をすることもありますが、これが研究の醍醐味です。また、世界に同じ手法で研究している人がいますが、同じ部分を基に考察しながら異なる結論を出すことがあります。若い頃にはこういうこともよいなと思いました。
小原: わかる気がします。科学の分野でも、似たようなことがあります。いずれにしても、あることを一生懸命に深く考えたり、真剣に取り組んでいないと天使はご褒美をくれないですね。
先生がこの言語哲学の分野を選ばれたきっかけはどのようなことでしょうか。
井原: 小さい時から言葉、詩、小説、まんが、作曲など自分の気持ちを創造的に表現することが好きでした。英語も好きな科目でしたので、上智大学で英語学科を選びました。それと、学生時代のアルバイト先で、現代思想のトップランナーの研究者の弟子であった二人が先輩にいて、その二人の話を聴いて哲学に興味をもつようになりました。そして、自分の大学にもこの分野の立派な先生がいることを知り、大学院では言語学課程で言語哲学を学びました。
小原: 井原先生は特技や趣味をたくさんもっていそうですが、これについて教えてください。
井原: 趣味はたくさんありますが、いくつか選ぶとすれば、まず、旅行と旅先での食べ歩きです。知らないところに行ってその土地の名物を食べるのが好きです。あと、海外でも国内でも旅先では必ずコーヒーを飲み、コーヒー豆を買って帰る程のコーヒー好きです。次に体を動かすことが昔から好きですが、今ではジムに行く程度で、もっぱらスポーツ観戦を好んでいます。スポーツは球技でもスキーでも何でも観ます。読書も小さいころから好きなので、本を読みながらテレビでスポーツ観戦をすることもあります。どちらかにすれば?と言われますが、どちらも並行してやれます。また、高校、大学生のころからロックバンドを組んでいまして、今でも時々当時の仲間と演奏します。ギターやキーボードを弾きます。オリジナルの曲も演奏していました。特技は、この楽器演奏と、かつては人のものまねも得意でした。
小原: 井原先生がロックバンドとは・・・楽しいですね。そういえば、井原先生が「X先生が・・・とおっしゃった」と、X先生にそっくりの言い方で再現されているのを聞いたことがあります。確かに、ものまねがうまいと思います。
先生の好きな言葉や座右の銘があれば教えてください。
井原: 自分の転換期に「意志あるところに道はある」という言葉によく思い至ることがあります。もう一つはサルトルの「約束は言葉ではなく、行動だ」という言葉です。何かトラブルがあったり、みんなで何かに向かってやらなければならない場面にぶつかった時、自分も口だけでなく誠実に行動する、関わることが大事だと自分自身に言い聞かせています。
■総合教育センターについて
小原: 本学の総合教育センターの特徴はどのようなことでしょうか。
井原: グローバル教育には外国語教育がもちろん必須ですが、一方でグローバルマインドや国際的に通用する思考力を育てることも必要です。今は、一般教養科目では理系科目はやや少ないですが、数学などの理系科目も充実させようとしています。数学をはじめとしてロジック(論理)を学ぶ学問は言語に関係なく、高い国際通用性をもち、このようなロジックおよび論理の展開を学ぶことは国際的に共通する武器となるものです。従って、自分の専門分野以外でも体系だった考え方や論理を学ぶことはグローバルな力をつけることにつながります。今の一般教養のカリキュラムは、この方向性で再編成しようとしています。学生には色々な科目を履修し、それらを自分のなかでつなげて理解してほしいと思っています。また、それができる教育環境を整えていきたいと思っています。
■大学について
小原: 最後に、昭和女子大学のセールスポイントはどんなところでしょうか。
井原: たとえば、女性教養講座や文化研究講座などのように、在学中に面倒くさいと思っている人がいるようなものでも、即効性というよりむしろ卒業してから効いてくるプログラムが本学には多くあります。自分に関心のない類の講演や芸術鑑賞でも、それに触れることよって自分の世界を拡げる機会になることもあります。この他、留学、学寮研修、プロジェクト活動など、自分の視野や器を広げ、感性のアンテナを磨く機会が多くあり、 それらの経験が後々の役に立つと思います。自分の枠を一回り大きくするための土壌作りをするものが、本学ではたくさん提供されています。
さらに、教員と学生の距離が近いところが良い点です。クラスアドバイザー制をとり、クラスの人数が少ないので、学生と教員が話す機会がたくさんあり、教員が学生の背中を押しやすい環境がここにあります。そのため、 他の大学に比べて卒業後もOGと長く関係を保っている教員も多いです。
小原の感想:
井原先生に楽しく話を聞かせていただきました。私の場合、実験が主体の研究をしているので、実験しながら得られた結果を考えるという研究手法ですが、先生のように論文を読んで深く思索するという、まさに学者らしい手法を取る方とは脳の使い方が少し違っているのではないかと感じました(実際はどうなのでしょうか?)。そして、先生はなんとなくマニアックな雰囲気を醸し出されているので趣味が多いことは予想していましたが、ロックバンドとは私の予想を超えていました。先生が一番気に入った食べ物はどこのどんな食べ物だったのかが後になってから気になりお聞きしたところ、ウィーンの「シンケンフレッカール」という料理だそうです。ハムとパスタで作るオーストリアの郷土料理のようですが、気になる人は調べてみては如何でしょうか。
次回からは、学内イベントや学生プロジェクトなど、様々なトピックスの中から1つを取り上げて紹介していきます。初回は、昭和女子大学創立100周年記念となるオリジナル和菓子の製作に挑戦した「和菓子100th Anniversary Sweets」プロジェクトを紹介する予定です。ご期待ください。
<関連リンク>
井原奉明教授の教員紹介ページ
総合教育センターの紹介ページ