<学部長インタビュー>
人間社会学部長の藤崎春代先生にお聞きしました。
■プロフィール
小原: 今回は、人間社会学部長の藤崎春代先生においでいただきました。先生は心理学科の教授ですが、まずは専門分野と研究の内容について伺いたいと思います。
藤崎: 心理学のなかに発達心理学という分野があります。この発達心理学と、それをベースとした発達臨床心理学が私の研究領域です。研究の内容は、園(保育園、幼稚園、こども園など)で生活する乳幼児の発達、そして園の先生や保護者の成長についてです。実践的研究としては、発達上「気がかりのある」子どもたちを園でどのように育てていくかということについて、先生方へのサポートを通して検討してきています。
小原: そのような研究テーマを選んだのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
藤崎: 学部の卒業論文では大学生を対象として記憶研究をしました。大学院に進学後は、漠然と子どもを対象としたいと思って、保育園で観察をしていました。そのなかで、休みの日の経験を報告する場面に出会いました。子どもたちは普通に話をする時とは違うことば遣いで、先生や仲間の前で、聞き手にとって関心がありそうな情報を含みこみながら一生懸命に報告していました。仲間に報告することに誇りを感じている様子も感じられ、感心するとともに興味をもちました。このことから、「子どもにとって、園は大事な生活の場なのだ!」と思ったのがきっかけです。
小原: 昔は、母親が働いているために子どもを保育園にあずけるのは子どもがかわいそうだという通論がありましたが、本当はそうではないということですね。
藤崎: そうです。子どもにとって園は家庭とは異なる生活の場であり、家庭とは異なる環境があり、育ちがあります。子どもの成長には園と家庭の両方の場が大事です。
小原: 先生が研究を進められる中でおもしろい、楽しいと感じるのはどんな場合ですか?
藤崎: 子どもが育っていくのに立ち会えるのが楽しいです。自分が保育をしているわけではありませんが、何らかの「気がかりのある子ども」の保育について、園の先生方や自治体の保育行政担当者とともに考える中で、子どもの育ちを確認できることが楽しく、やりがいにつながっています。また、入園から卒園まで保護者に継続的なアンケート調査をした時に、回答とともに励ましの声をいただいたこともうれしいことでした。
小原: 先生の特技や趣味、座右の銘があれば教えてください。
藤崎: 研究をずっとやってきたのでいわゆる趣味はないのですが、園に行くことでしょうか。特技は泣いている赤ちゃんと仲良くできることです。発達心理学の観点から赤ちゃんの気持ちに近づくいくつかのポイントを知っているので、そこを探っていくとうまくいきます。座右の銘といえば、研究室のPCの横に「一生勉強、一生青春」(相田みつを)というカードを置いています。
■学部について
小原: 人間社会学部の特徴とは、どのようなところだと考えていますか?
藤崎: 人間社会学部の各学科の特徴を一言でいえば、心理学科は「こころを科学し、社会で活かす」、福祉社会学科は「地域共生社会の実現を目指す」、初等教育学科は「子どもたちの未来をデザインし、未来社会を担う子どもを育てる」、現代教養学科は「教養で人間と社会の未来をつくる」となります。それぞれが、多様な側面から人間と社会の関わりを捉える切り口を示しています。カリキュラムのなかで「人間社会学総論」として、学部内の他学科の授業を履修できるシステムがあるので、学生には是非学んで視野を広げてほしいです。
小原: 学部の目指しているところ、輩出したい人物像はどのようなものでしょうか?
しっかりした理論とともに、問題解決に関わる実践スキルも併せて修得し、主体的に社会貢献できる人材を育成したいと思います。コロナ禍で否応なく生活や学びも影響を受けていますが、一方的に影響を与えられる受け身ではなく、これを機に社会や、社会との関わり方を変えていこうとするのも人間です。社会の変化のなかで様々な視点から問題を理解し、解決策を探ることが求められています。その意味でこのような状況下で、今何をどのように学ぶかということが重要だと思います。人間社会学部の学生たちには、社会と周囲の人々の動きをしっかりと見つつ、学びを通して力を蓄えてほしいです。
小原: 人間社会学部のセールスポイントを教えてください。
藤崎: 人間社会学部の4学科に共通するセールスポイントは、学内で基礎的な理論や方法論をしっかり学ぶことを踏まえて、実際に社会とかかわることが学びに組み込まれていることです。資格を取得して専門職として社会に貢献することに加え、社会をどのように捉え、関わっていくのかを意識した学びの機会―プロジェクト学習や海外研修など―が用意されています。海外研修でも、語学習得よりもむしろ社会システムに関心をもつ学生が多いのが学部の特徴でもあります。現在、4学科とも新カリキュラムに移行したところ、あるいはこれから移行する予定です。
■大学について
小原: 学生にとって、本学で学ぶメリットはどこにあると考えていますか?
藤崎: 昭和女子大学の敷地内にあるTUJ(テンプル大学ジャパンキャンパス)や、海外キャンパス「昭和ボストン」も含めて、様々な経験ができる機会・仕組みが用意されているところが何よりのメリットと考えます。発達心理学においては、大学時代はアイデンティティの形成が課題となる青年期に含まれます。「私とは何か、私は何をしたいのか」と悩んでいる学生も多いと思いますが、悩む一方で少し動いてみることを勧めます。一つの経験が自分らしさに気づくきっかけになったり、将来につながったりすることもあります。
また、本学は「面倒見のよい大学」と言われますが、それはお世話するという意味でなく、学生が少し不安に感じた時に、「やってみたら」という信号を発する教職員がいるということだと思います。発達心理学で「社会的参照」という考え方があります。はいはいや歩行ができ始めた乳児が一歩踏み出そうとする時、信頼する大人を振り返り、大人の表情から自分がどうすればよいのかを読み取ります。これが「社会的参照」です。大学生は乳児ではありませんが、親や教師から離れて新しい大きな世界に船出していく時、乳児と同様不安だと思います。その時振り返ると「やってみたら」というゴーサインを出している人たちがいる、それが昭和女子大学だと思います。そして私もゴーサインを出し続けたいと思っています。
小原の感想:
会議などでは、いつも冷静にてきぱきと発言されている藤崎先生ですが、研究活動では乳幼児を観察しつつ、子どもの発達を温かく見守っておられる姿勢が印象的でした。先生は子どもだけでなく、子どもに関わる大人の育ちについても研究されており、研究成果が保育支援や子育て支援に直接つながっているところが臨床研究のやりがいや魅力であると思いました。
次回は、環境デザイン学部長の金尾朗先生をブログで紹介する予定です。ご期待ください。
<関連リンク>
藤崎春代教授の教員紹介ページ
学科紹介ページ(心理学科)
学科紹介ページ(福祉社会学科)
学科紹介ページ(現代教養学科)
学科紹介ページ(初等教育学科)