<教職員インタビュー>
このブログでは本学の教職員や学生のみなさんの活動を紹介したいと思います。今日は、英語コミュニケーション学科の山本史郎教授にお話を伺います。
■プロフィール
小原: まず、山本先生の研究について聞かせてください。
山本: 研究分野は「翻訳論」です。英語の文章をどのように訳すか、日本の翻訳は歴史的にどうであったかを研究する分野ですが、私は主に前者を中心に研究しています。当初は19、20世紀の英文学が専門だったのですが、コンピュータを趣味にしていた私は、大学の改組で言語情報学に方向転換することになりました。そこでコンピュータ言語を教えるようになり、サーバーの管理までしていました。しかし、ようやく英国に留学する機会を得たのを機に、本格的に翻訳を始めました。そういうわけで、東大で「翻訳論」を教え始めたのは20年くらい前からです。翻訳は翻訳経験の蓄積が役に立つので、英語力、文章力は経験を積むほど年々進化しています。だから東大時代より昭和女子大学でのほうが、翻訳能力が高くなっていると思います(笑)。
小原: 先生が翻訳された中でご自慢の本を紹介してください。
山本: トールキンの「ホビット」ですね。この本は原作の絵も入っていてきれいです。これの翻訳は2か月間、毎日十何時間もの時間をかけて改訳したもので、文章が正確でわかりやすく、あいまいさのない訳になっています。「赤毛のアン」も訳しています。サトクリフもいっぱい訳しており、自分でも好きです。最近出版した「翻訳の授業」もなかなかよいですよ。
■昭和女子大学で教壇に立って
小原: 本学で教えられて如何ですか。
山本: 今、研究と授業を熱心にやっていますが、授業は楽しいです。本学の学生は講義に興味をもってよく聞いてくれます。特に1年次のクラスでは、テキストを訳し自分の言葉で内容を紹介することをやっていますが、自分の言葉で説明するところが、単なる訳になってしまい、始めは難しいようです。しかしリアクションもよく、だんだん学生が成長し変わっていくのがよいですね。
小原: 自分が教えた学生が成長するのを見るのは教員冥利につきますね。
■研究の楽しみ、趣味について
小原: ところで、先生の研究のなかでどんなところが楽しいのでしょうか。
山本: 英語を日本語に訳しかえるプロセスが楽しいです。文章のどこに力点をおくか、センテンスのつなぎ方をどうするかなどを考えるのが楽しいです。そういえば朝日新聞の「朝日ウィークリー」に短い英語の文章を訳すレッスンの記事を書いているのですが、この作業もなかなか楽しいです。翻訳は感性だけではなく、理論的に考えることも必要です。
逆にきつかったことは、人気作品を訳した時、昔の訳本での読者ファンから厳しく批判されたことです。
小原: なぜ英文学の道を選んだのでしょうか。
山本: 高校生時代は京都大学で中国文学を学びたいと思っていたのですが、叔母から東京大学を強く勧められ、東大に入学しました。初めは仏文学をやろうとしたのですが、仏文学をやる学生たちの気質を見て、自分はちょっと違うなと思い英文学にしました。
小原: 先生の趣味、好きな言葉があれば教えてください。
山本: 小さい頃、ヴァイオリンを習っていたのですが、60歳ぐらいから再びヴァイオリンを始めました。こどもが使っていたヴァイオリンが家にあり、この音色がすごくきれいなので気持ちよく弾けるのです。(小原注釈:先生のお子様はヴィオラ奏者で、ときどきオーケストラでアルバイトで弾いているそうです)
好きな言葉は“Don’t take yourself too seriously”、「自分を笑う余裕を持て」と訳しましょうか。(さすが、翻訳家ですね・・小原)それと、「失望することがあっても絶望するな」、原点回帰で何もないところ(たとえば、生きているだけで有難い)から始めようという意味です。実際に私はそう思うようにしています。
■学生へのメッセージ
小原: 昭和女子大学の学生にメッセージをお願いします。
山本: ダブルディグリープログラムについては、こんな良い制度はないと思います。学生は恵まれています。ボストン留学についても、いきなり一人でアメリカ社会に出される前に、ゆるやかな形でトレーニングできるのがよいと思います。できる学生には他の選択肢もあります。また、他の大学と比べ、本学の教員は学生に親身になってサポートしていると思います。
学生に対してのメッセージとして、学生のみなさんは群れたり他の人と同じようにしたがる傾向がありますが、他の人にこだわらずにもっと自由に発想したり、自分自身で物事を考えてほしいと思います。
小原の感想:
実は、山本先生は私と同じ高校の出身でしかも同期です。ベビーブーム末期の当時は1学年12クラスもあり、同じクラスになったことはなく面識もありませんでした。けれどもある時、私の好きな英国の歴史小説家で児童文学者でもあるローズマリ・サトクリフの本の奥付にある訳者紹介から山本先生が高校の同窓生であることを初めて知りました。因みに高校生のころ、学園祭で同じく同窓生の澤和樹氏(ヴァイオリニスト、東京芸術大学学長)とヴァイオリンのデュエットをしたことがあったそうです。私も同じ場所にいたのではないかと思いますが、全く記憶にないです。
山本先生が翻訳について語られた時、最良の訳を目指して呻吟しながら思考する作業の楽しさが実感として伝わってきました。私がもし学生であったなら、山本先生の授業を一度は受けたかったと思います。山本先生、有難うございました。