<教職員インタビュー>
今回は管理栄養学科の飯野久和教授にインタビューさせていただきました。飯野先生は以前「昭和女子大学 飯野教授が開発した乳酸菌でつくったヨーグルト」という先生の個人名称の入ったヨーグルトが市販されたこともあるほど、乳酸菌、腸内細菌の研究で有名な方です。私もスーパーマーケットでこのヨーグルトを見たことがあります。
■研究分野、内容について
小原: まず、飯野先生の研究分野と内容について教えてください。
飯野: 人と微生物の関わりについて研究しています。具体的には、伝統的な食品や食品原料から人に有用な微生物を探索することです。そして、その微生物の生産物あるいは微生物そのものが人にとってどのような有用性があるか調べ、利用していくことです。特にその有用性として腸内細菌叢育種への有用性、排便サイクル以外に肌やストレスと腸内細菌の関連性を探る研究も行っています。腸内細菌と便秘、便秘による血中成分の変化と肌荒れの関係も調べたことがあります。これらには何らかの関係性があるように考えられてきたのですが、実際に証明することが難しくもあります。たとえば、女性のホルモンバランスと便秘の関係なども研究していますが、ホルモンバランスのどういう状態が健康といえるのかが定義しにくいので、難しいですね。定年退職を前にして、今は乳酸菌をはじめとしてこれまで集めた有用微生物を整理しています。
小原: 先生がこの研究を始めたきっかけを教えてください。
飯野: 私は元々免疫学が専門でしたが、大学では条件的にこの分野の研究ができなかったことから、人と微生物の関わりを研究することにしました。本学に来てから3年間で約4000株の微生物を分離・同定したところ、恩師がそれを農林水産省の食品総合研究所(食総研、現在の国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門)に譲渡したことがきっかけとなり、食総研との共同研究がスタートしました。その仕事ではエネルギー0の糖質であるエリスリトールを生産する菌をスクリーニングし、実験室レベルでの生産性検討を経て工業化へ結びつけることができ、大変大きな成果となりました。その後、腸内細菌の権威であった東京大学の光岡知足先生から腸内細菌の研究手法を学び、この研究を続けてきました。
■研究の醍醐味
小原: 先生が長年この研究に興味をもち、継続されている理由とはなんでしょうか。
飯野: 現在は食品に賞味期限がありますが、昔の人は見たり、臭いをかいだり、触ったりして腐って食べられないとか発酵しているとかを判断してきました。人は長年の経験で体によいなどの食品の機能を判断してきましたが、これをヒントにして食品の機能の素(源)を探すことは興味深いし、そのようなヒントは至る所にあります。東京の檜原地域は米ができなくて大麦を主食としていた土地ですが、長寿の村です。そこでは麦麹を使っていましたが、驚いたことにそれと同じ種類の菌が東南アジアのある地域にもあることがわかりました。最初はありえないと思うことでも、何回調べても同じ結果になるとやはり正しいとわかります。また、ある菌を探す中で、今はまだ見つからないがずっと探し続けるといつかは見つかるはずと思って研究を進めます。ここが研究の醍醐味です。
小原: その考えに私も共感できます。研究を進める強い意志ですね。そういう考えだから、大きな研究成果をあげられたのですね。
飯野: 本学は研究設備の限られた環境ですが、私の研究成果は昭和女子大学だからこそあげられたと思います。そして、よい先輩に恵まれたからと思います。40年前、教員は夜に大学に残ってはいけないことになっており電気も消されていたのですが、隣の部屋の先輩はそんな中でも遅くなると電気スタンドをつけて実験器具を洗っていました。そんな先輩の姿を見て、自分も研究にそのような姿勢で臨みたいと考えてやってきました。
小原: 先生がこの分野を選んだきっかけを教えてください。
飯野: 小さいころから植物、特に野の花が好きで、農業をやりたいと思っていました。ところが、中学生の頃、父に「家が農家でないと農業はできない」と言われ、それなら生物学科で植物を学ぶか、農学部に進もうと思いました。生物学科で植物を学べるところは少なかったので、結果として農学部に進学しました。大学生の時、英語の勉強のために英語で書かれた「微生物学の一里塚」という本を読んだのがきっかけで、卒業研究に応用微生物学の研究室を選びました。
■趣味、好きな言葉
小原: 先生の趣味はいっぱいありそうですね。趣味や特技、座右の銘があれば教えてください。
飯野: ものを作ることが好きです。日曜大工です。ただ、片付けは不得意なので、つくることと片付けることが両方得意だったらよかったのにと思います。そして読書と散歩です。景色や草花を見ながら、ただぶらぶら歩くことが好きです。好きな言葉は「流れるままに生きる」です。流れるのも下向きで川底を見るのではなく、周りを眺め、時々寄り道をし、流れていくのがよいと思います。
■学生へのメッセージ
小原: 昭和女子大学の学生にメッセージをいただけますか。
飯野: 私は昭和女子大学が大好きです。中でも自分の所属する学科が一番好きです。だから学生にも大学や自分の学科を好きになってほしいと思っています。また、誰しもやらなければいけないこと、したいこと、どちらでもよいことがありますが、今何が大事か、優先順位を考えて学生生活を送ってほしいと思います。少なくとも4年生になるまでにはそれができるようになってほしいです。低学年から努力している人は必ず何かしらの成果を出している、もしくは、少なくとも何かをつかんでいると思います。だから学生に努力して頑張ってほしいと思っています。
小原の感想:
飯野先生の研究の話は特に共感することが多くありました。私も研究が思うように進まないことが多いのですが、飯野先生が「今見つからなくとも、いつか必ず見つかる」という気持ちで、「予想外の結果でも繰り返し試しても結果が変わらない(再現性がある)なら、それが事実だ」という考えで、有用微生物をずっと研究され、多くの成果を出してこられたことを伺い、私も元気が湧きました。また、これまで大学教員として研究する中で、尊敬できる先輩教員がおられたことにも感謝していると伺い、心が温まる思いでした。飯野先生にはこれまで一緒に仕事をする過程で色々なことを教えていただき、私も先輩教員である飯野先生に感謝したいと思います。