2022年7月1日学長ブログ

<教職員インタビュー>
今回は環境デザイン学科の菊田琢也専任講師にお話を伺いました。

■研究の分野・テーマについて

小原: 菊田先生の研究分野と最近のテーマについてお聞きしたいと思います。

菊田: 一言で言うとファッション研究(Fashion Studies)です。ファッションは社会学、哲学、史学、ジェンダー論など多方面から研究されていますが、私は文化社会学の立場からファッションを研究しています。特にファッションメディアを対象にしています。たとえば、ファッション誌の誌面はあるファッションイメージを発信していますが、読者はそこから作り手側の価値観に加えて、その背景にある社会的な感覚やジェンダー観など様々なものを受信しています。そして受信したことを今度は読者自身がそれぞれにエンボディメント(身体化)し、さらにそれが社会に拡散されることでイメージや価値観が変容しながら伝搬していきます。私はそのファッションイメージと私達の装い、そして社会との関係性を考えています。最近は、高田賢三氏について調べています。

研究手法としては、膨大な資料を調査し、自分の解釈を加えずに客観的な事実としてまとめていきます。一方で、評論家としてはパリコレのようなコレクションを実際に取材し、ファッションイメージの変化を観察し、自分が感じ取ったものや見解を述べる必要があります。

■研究の醍醐味について

小原: 自然科学分野とは全く異質で、哲学的ですね。先生がご自分の研究を進めていく中で、わくわくするのはどんな時ですか。

菊田: 私の研究は歴史的な資料を調査するのですが、何時間もかけて資料を調べても自分の立てた仮説の根拠が見つからないこともあります。しかし膨大な資料のなかから自分の考えていた裏付けを見つけた時は何ものにも代え難い達成感を味わうことができます。

小原: 私も分野は違ってもその達成感はわかります。研究の醍醐味ですね。先生がこの分野を選んだきっかけはなんだったのでしょうか。

菊田: 両親が服(プレタポルテや舞台衣装)の縫製の仕事をしていたので、子供の時から服は身近で気になるものであり、自分自身もおしゃれが好きでした。その一方、考えたり文章を書くことが好きだったので、大学では哲学を学びました。哲学を学ぶなかで美学という学問があることを知ったことと、鷲田清一氏の本の影響を受けたことからファッションを研究対象にして卒業論文を書きました。当初はファッションを哲学の研究対象にする人はあまりいなかったのですが、同世代に鷲田氏の本を読んでファッションの研究を始めた人たちが何人かいました。その後世の中でファッション研究が認知され始めたと思います。

■趣味、座右の銘について

小原: ファッション研究は先生たちが開拓した新しい分野の研究だったのですね。先生の趣味や座右の銘を教えてください。

菊田: 趣味は色々ありますが、一つはパン屋巡りです。たとえば、パリコレに行った際は、ショー会場を周りながらクロワッサンの食べ歩きをしていました。パリは地区によって住む人のエスニシティやライフスタイルが大きく異なるのですが、毎日食べるパンの味にはそれらが反映されているように思います。色々な店のクロワッサンを食べ比べることで、パリという都市の多様性への理解に少しでもつながったらと、昔、大学の恩師からファッションを知りたいなら、服だけでなく今流行りのチョコレートの味も知るべきと言われました。今、人々がどういうものを求めているのか、時代の空気のようなものを色々な角度から見るべきだという教えとして心に刻んでおります。もともとパンやチョコが好きなので、食べることに理由をつけているだけだったりしますが(笑)。

座右の銘というほどではないですが、何事も自分の身体で確かめること、自分の目で見て、触れて確かめる、体験することを大事にしています。服についても同じで、年間何万着も実際に見ています。

■本学学生、受験生へのメッセージ

小原: 最後に、昭和女子大学について学生や受験生へメッセージをお願いします。

菊田: 環境デザイン学科の場合ですが、色々な価値観を持った魅力的な教員がおり、それぞれが自由に意見を言える雰囲気があります。例えば「デザイン基礎」の授業では教員が学生の作品についてそれぞれにコメントや助言をしますが、色々な意見があって何が正しいかわからなくなると言う学生もいます。しかし、課題の正解は一つではなく、様々な考えをもつ先生方と触れるなかで学生が学べるところがよいと思います。その自由さがよいなと思います。

小原の感想:

インタビューで,菊田先生が話されていた、先生と同世代のファッション研究者たちが執筆した本が出版されていますので、以下に紹介します。

『〈クリティカル・ワード〉ファッションスタディーズ 私と社会と衣服の関係』蘆田裕史,藤嶋陽子,宮脇千絵編,フィルムアート社,2022年

また、余談ですが、世田谷でもパン屋巡りをされていて、お勧めは「シニフィアン シニフィエ」のパンだそうです。菊田先生は入校3年目にして既に学科内の多くの仕事をこなして忙しい日々を過ごしておられますが、ファッション研究を深めることもパン屋巡りすることも(多分他にも趣味がたくさんありそうですが)、なんにでも興味をもって、楽しみながら追及する生き方がとても素敵だと思いました。

<菊田先生の研究室にて>