こんにちは。歴史文化学科の山本暉久です。わたしは日本考古学を専攻しています。考古学は
歴史文化学科のモットーである「手で考え、足で見る」を、まさに実践する学問です。なにごとも
まず、モノ(遺跡・遺物)を見る、観察することから始まります。
さて、今回は、9月の夏休みにわたしが所属する縄文時代文化研究会の仲間たちと、愛知県渥
美半島の貝塚遺跡を見学したときの話です。渥美半島には、縄文時代の大規模な貝塚として著
名な吉胡(よしご)貝塚、伊川津(いかわづ)貝塚、保美(ほび)貝塚の三大貝塚があります。このう
ち、吉胡貝塚は数百体の埋葬人骨が発見されたことで有名な貝塚です。
いきなりヒトの頭蓋骨の写真で驚かれるかもしれませんが、吉胡貝塚に葬られていた、この
彼(男の成人)の歯に注目してください。彼は上あごの左右の犬歯と、下あごの左右の犬歯及び
右第一切歯1本が生前に抜かれています。抜歯といって、縄文時代の人骨にはしばしば認めら
れるもので、生前に意図的に抜いたことがわかります。なぜそのような痛みを伴う行為をしたの
でしょうか。不思議ですね。
学説では、上あごの犬歯を抜歯するのは、成人を迎えた時、下あごの抜歯は、結婚や再婚の時
に行ったものと考えられています。そのような習俗を通過儀礼ともいっています。
考古学は遺物といっても、人骨も対象として、その当時の人たちの暮らしぶりを探るのも大切な
研究分野なのです。まずは何事も、現地に出かけて観察することから始めましょう。
吉胡貝塚の抜歯人骨写真