被団協文書整理会がはじまりました!

こんにちは、松田忍です。

夏休みに入り、今年も被団協文書整理会がスタートしました。今年は昨年より多い19名の学生・OGのみなさんが参加する予定となっています。被爆者運動関連史料の整理を主宰しているノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会(継承する会)には、現在、個人や団体に残る史料が次々に集められてきている状態だそうでして、そうした被爆者運動関連史料の中心の一つである被団協文書を整理して、その他の史料と比較検討する準備を整える必要性がますます高まってきているといえます。

年月が経つとともに被爆者の数も年々減り続け、たとえば秋田県在住の被爆者は数十人規模まで減少しているそうです。規模の小さい団体が後継者を得られず、活動を休止していくということも現実に起こっているという状況にあって、まだ団体の「体力」が残っているうちに、活動の記録を残しておきたいというのが、継承する会の意向だそうです。

作業内容は、歴史史料が綴じられたファイルの中身を一点一点確認しながら、作成年代を確定していくことが中心になっています。またそれと同時に、将来的に錆びてしまって史料破損の原因となるような、クリップやステープラーを除去していきます。

作業場の雰囲気はかな~りなごやか。しばしば手を止めては、史料を読んでいて気づいた小さな発見を指摘しあったりしています。また歴文の1年生から3年生、そしてOGまで参加していますので、学年を超えて「昭和女子・歴文あるある」などでも盛りあがる交流の場にもなっています。その他教員が聞いてはいけない情報が交換されていたような気がしますが、これは聞かなかったことに笑

みなさんが参加してくれた理由はさまざまです。せっかくの夏休みだからいろいろなことにチャレンジしてみたいという1年生。古い史料やモノに触ること自体が大好きで、歴文でやっているいろいろな史料保存活動に参加している2年生。近現代ゼミに入って卒論のテーマ探しをしている3年生。そして普段史料保存に関わる仕事をしているにも関わらず、貴重なお休みの日にもまた史料整理会に駆けつけてくれた、生粋のアーキビストであるゼミOG。

ちょっと真面目な話をします。

あらゆる史料が現在に存在している理由。それは、かつて誰かが文字を記すことで、なんらかの思いを伝えたいと思ったからに他なりません。当たり前の話ですが。政治家の日記であれ、恋人同士の手紙であれ、社会調査のお堅い統計資料であれ、全て同じです。もちろん被団協文書も。そして被団協の運動をおさえる立場にたった人たちの残した文字も。その思いは一度史料が失われると、永遠に失われてしまいます。

論文というのは基本的には今生きている人に向かって書かれるものであります。ですから時代の移り変わりと共に読まれなくこともありえるでしょう。つまり、論文には、長いにせよ、短いにせよ、「賞味期限」というものがつきまといます。しかし史料には「賞味期限」はありません。我々が生きているこの時代を、これから生きることになる誰かが知りたいと思う可能性がある限り、史料は生き続けます。その誰かのために史料を保存することは未来に対する我々の責任であると思っております。そうした価値あるボランティア活動に、たくさんの学生たちが夏休みを差し出して参加してくれることを心から嬉しく思っております。

まだ文書整理会は数回しか開かれておりませんし、被爆者運動を研究しているわけでもない私が、この文書群を専門的に語る資格はありません。しかし、あくまでも現時点までで松田が認識している、被団協文書を整理することの意味を申しておきます。

1点目は、機関誌や内部通信文書の保存です。整理の過程で、『被団協通信』といった基本的な史料ですら、現時点ですでに欠けている号があることがわかりました。しかしいまなら、欠号状況が分かれば、各関係機関に問い合わせることで補うことも可能です。冒頭で申し上げたような状況にある以上、今がまさしく「ラストチャンス」だと思っております。また史料整理をやってみて分かったのは、各県や各地で原爆運動をやっている大小さまざまな団体が数多く存在し、そうした団体の機関誌やパンフレットが大量に被団協に送られてきているという事実です。被爆者運動は広島、長崎、あるいは東京だけの運動ではないことが実感できます。被団協には断片的にしか存在していない各団体の史料も、被団協文書の史料目録が出れば、史料が存在しているという事実を共通認識として持つことができます。そうすれば、欠号を補おうとか、場合によってはデジタル化して保存しようといった動きも出て来るのではないかと思います。

2点目。この文書群は、戦後の言論空間において「運動の言葉」がどのように練り上げられたかを豊かに指し示してくれる可能性があるということです。たとえば自ら被爆者として国連で演説し、昨年亡くなった山口仙二氏の演説原稿は第1稿から第4稿(完成稿)まで存在していますし、「基本要求」を作っていく過程での20数回の書き直しも残されています。当時刊行された史料、されていない史料双方を解読することで、「運動の言葉」の変遷を非常に高い密度で追うことが可能となるでしょう。それはまさしく歴史学の仕事です。

3点目。被爆者に対する各種アンケート調査の結果を調査原票にまでさかのぼってみることができるということです。被団協によせられた被爆者やその家族の生の声は、まさしくここにしか存在しない「一点物」の史料であります。今、整理・保存しなければ、その声は永遠に失われると考えると、胸が引き締まる思いがします。

現在、戦後史料は次々と整理されています。運動の側だけではない他の史料群ともあわせながら被団協文書を読むことで、どのような戦後の歴史像が描きだされるのでしょうか。現在進行系で進んでいる、戦後を歴史的に捉えようとする試みにとって、この史料群の存在は大きな価値があると思います。

今日は、地道な史料整理活動へご興味をお持ちになった新聞社3社からの取材を受けました。学生たちは緊張していましたが、「なぜ史料整理会に参加しようと思ったのか」「史料を見ていて気づいたこと」「歴史に対する思い」などを自分のことばでしっかりと語っていました。記事が掲載されましたら、またご紹介いたしますね。

まずは8月10日まで集中的に活動をおこない、その後8月下旬から9月上旬にかけて活動を再開する予定であります。ご協力頂けるかたは是非松田までご連絡をお願いいたします!きっとみなさんにとっても良い経験になるよ!!