エジプト学の研究対象

古代エジプトを勉強している吉成です。今回はいつもとはちがう話題を取り上げましょう。 

猫です。 

古代エジプトの美術作品には猫が表現されていることがあります。末期王朝時代のブロンズ像、新王国時代の墓の壁画のモチーフなどがその代表でしょう。古代エジプトでは猫がペットとして飼われていたことが知られています。ヘロドトスの『歴史』ではエジプト社会で猫が大切にされていたことが伝えられています。 

古代エジプトの猫の代表はエジプシャンマウと呼ばれる種類です。「マウ」というのは古代エジプト語をそのまま名称としているもので、ヒエログリフの読み方では「ミウ」これは「猫」という意味でその鳴き声からできた単語だと考えられています。(ちなみにマウというのはエジプト研究の古い段階で使われたヒエログリフの音訳の方式に従った結果だと考えられます。)
最近入手した『世界で一番美しい猫の図鑑』(2014 エクスナレッジ発行)によれば、エジプシャンマウは現存する猫のうち最古の種とされています。 

『世界で一番美しい猫の図鑑』より       エジプシャンマウ(クリックで拡大します)

美術作品で表現されているのもこの種だと考えられます。

エジプトの猫というとアビシニアンが良く取り上げられますが、上述の図鑑によると、アビシニアンは中世(ということはイスラム教成立以降)のものであるとされています。エジプシャンマウはもともとエジプトに居た野生の猫(リビアヤマネコがその代表だそうです。)が改良されたもので、水に濡れることを嫌う筈の猫がナイル河沿岸の沼地で水鳥の巣を狙う姿や、飼い主の娯楽に従って、投げ棒で打ち落とされた水鳥を猟犬の様に飼い主のもとにはこんで来る姿で描かれていることが、野生種から改良されて間もない事実を表しているとされます。

猫は神としても表現されています。バステト女神また暗黒の蛇神アポピスを切り刻むラー神の化身などですが、蓄えた穀物に害を及ぼすネズミや人を傷つける蛇を退治する猫の性質がありがたいと評価され神格化に結びついたと考えられています。

古代エジプトを研究する学問を「エジプト学」と言いますが、その研究対象はありとあらゆる事象、つまりエジプト文明の要素であれば何を研究してもよいことになっています。もちろん猫でも犬でも、好きなもの、自分の気になるものがエジプトにあれば、それを研究することが出来るのです。もちろんそのためには基礎的な学問の訓練は必要です(例えばヒエログリフの学習など)が、こんなに自由な学問分野はほかに見当たらないと言えそうです。エジプト学研究に参加する人を求めます。