東京国立博物館の表慶館で今、特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美実の源流」展が開催されていました。今回はこの展覧会を紹介します。コルカタ(旧カルカッタ)は私が暫く留学していたところでもあり、懐かしい街です。
コルカタ・インド博物館は、1814年に開館したアジア最古の博物館で収蔵品は多岐にわたり、中でも仏教美術のコレクションは群を抜いています。今回展示されている仏教美術の出土品は無仏像時代の紀元前2世紀頃の「バールフット」の出土品やマトゥラーやガンダーラ、グプタ朝時代の仏立像やパーラ朝時代の密教像など多種多様な仏教美術の数々です。
バールフットの高さ3mの巨大な欄楯や塔門に彫られたレリーフには、釈迦の生涯である仏伝図、前世の物語であるジャータカ、ヤクシャやヤクシ-といった神像、蓮華紋様などがびっしりと彫られています。この仏塔は1873年インド考古局のA.カニンガムによって発見されて、翌年カルカッタ博物館に移されました。
展示品の全体を概観すると、選りすぐった優品を日本へ持ってきたことが分かります。それに展示の方法が分かりやすく陳列されていることに気が付きます。
それでは展示されているいくつかの作品を見ていくことにしましょう。
<仏足石>
これは11世紀頃のパーラ朝時代の仏足石です。無仏像時代の名残で、仏像が出来た後でもこのような象徴で仏陀の存在を暗示したレリーフが作られました。
<聖樹崇拝>
これはバールフットのレリーフです。インドでは古くから聖樹を崇拝する伝統がありました。
これも供養者が樹木を仏陀の象徴として供養している浮彫図です。
<法輪崇拝>
これもバールフットの無仏像時代のレリーフです。供養者は法輪を供養しています。
インドでは、古代初期の仏教寺院建築はストゥーパ(仏塔)を中心に造られました。
仏像誕生以前は、悟りを開いた仏陀を人間の姿で表さず、佛足跡、法輪、聖樹などの象徴によってその存在を表現しました。
<托胎霊夢>
仏陀の母、マーヤ夫人はある夜、白象が胎内に入る夢をみて懐妊を知りました。
この浮彫図はパキスタン出土の2世紀頃のクシャーン朝の作品です。
<仏陀誕生>
マーヤ夫人の右脇腹から誕生する仏陀。
10世紀、パーラ朝時代の作品です。ナーランダー出土。
<出家踰城>
出家の決意を固め、馭者のチュウダを従え、愛馬カンタカに乗ってカピラ城を出て行くところです。
2世紀頃、クシャーン朝の作品。パキスタン出土。
<臨終>
2本の沙羅樹の間で北枕に右脇腹を下にして、臨終を迎えている浮彫図。
2世紀頃、クシャーン朝の作品。パキスタン出土。
私はバールフットと同じくインド中部のサンチーのストゥーパの調査をしました。バールフットより少し時代が後になりますが、この仏塔は今でも現地に存在しています。(一見の価値あり)
日本ではインドの無仏像時代の古代仏教美術を実際に見る機会は少ないので、皆さんも是非この機会に、上野の表慶館へ足を運んでみたらいかがでしょうか。
(早田記)
※写真はすべて、同展覧会の図録『INDIAN BUDDHIST ART』から転載したものです。