こんにちは。西洋史の小野寺です。
今年の2月18日から29日まで、19名の学生を引率して「ヨーロッパ歴史演習」の研修旅行に行ってきました。
今回のテーマは、「ヨーロッパの『負の遺産』を訪れる」。
ナチズム、東ドイツといった「負の歴史」がヨーロッパではどのように記憶されているのか、ポーランド、ドイツ、オランダの三ヶ国をめぐりながら学んでいくというものです。
具体的には、まずポーランドで、アウシュヴィッツ・ビルケナウ収容所、クラクフのシンドラー工場博物館を訪問しました。ベルリンでは、ベルリン・ユダヤ博物館、テロのトポグラフィー、虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑、ヴァンゼー会議記念館といったナチズム・ホロコースト関係、壁博物館、東ドイツ博物館、シュタージ博物館といった東ドイツ関係の博物館を見学しました。さらにボンのドイツ歴史博物館で戦後史を学び、最後にアムステルダムでアンネ・フランクの家、レジスタンス博物館を訪れました(下は、東ドイツ博物館で東ドイツ兵士のヘルメットをかぶる学生)。
その一方で、現地の歴史文化や宗教、芸術に触れる機会もありました。クラクフでは世界遺産のヴァヴェル城や旧市街を徒歩で回り、ケルン大聖堂ではちょうどミサの最中に見学することができました。ボンにあるベートーヴェンの生家も訪れ、ケルンではローマ・ゲルマン博物館でローマの文化水準の異様な高さに圧倒されました。アムステルダムではゴッホ博物館で、「鬼才」としかいいようのない彼の絵画にこれまた圧倒されました。
今回の研修旅行では、いろいろな「出会い」もありました。
アウシュヴィッツでは、日本人でただ一人のガイドである中谷剛さんに、6時間以上つきっきりで説明していただきました。
単に昔のことをすでに起こってしまった過去のこととして理解するのではなく、今の問題にひきつけて(たとえば難民問題、雇用問題)考えることを促す中谷さんのガイドは、強い印象を与えるものでした。
ベルリンでは、私の知り合いであるフンボルト大学学生のマルテさんと、夕食会を開きました。
「過去の克服」と日独の比較、日本とドイツの「国民性」、ナチスにおける「正の側面」(アウトバーンとか)、難民危機、ウクライナ危機、歴史教育における「犠牲者」と「加害者」の位置づけ方、平和観など、さまざまなことが議論されました(下はマルテさんとの写真)。
このブログでは今後数回にわたって、参加した学生のみなさんの感想を連載していきたいと思います。
ですので、ここでは私が一つ強く印象に残ったことだけを記しておきます。
ベルリンの博物館「テロのトポグラフィー」を見ていたときのこと。
帰りがけに、職員の方に声をかけられました。
「あなたは、いい歴史の先生ですね」、と。
一瞬意味が分からず、どうしてそんなことを言うのだろうと怪訝な顔をしていると、
「だって、学生さんがみんな一生懸命展示を見ていますもん」、と。
まわりを見回してみると、先生に引率されてきたドイツ人の中学・高校生が沢山いるのですが、確かに多くの生徒は「連れてこられたからやむを得ず見ている」といった感じで、熱心に見ている生徒はあまりいなかったのが実情でした。
もちろん私たちは大学生なわけで、中高生とは状況が違うのですが、それでも関心のある学生が熱意をもって展示を見ている状況は博物館の方にも印象を与えていたようで、そのことを私は嬉しく思いました。
実際、アウシュヴィッツのガイドの中谷さん、ヴァンゼー会議記念館で説明してくださった学者の方も、ものすごく一生懸命説明してくださいました。学生の熱意が、先方にも伝わったのだと思います。
10泊12日で非常に疲れましたが、充実感のあるいい研修旅行でした。
次回は2年後。
関心のあるみなさんの参加をお待ちしています!