【ヨーロッパ歴史演習】ヨーロッパの博物館や記念碑から学んだこと

西洋史の小野寺です。
引き続き、ヨーロッパ歴史演習に参加した学生の皆さんの感想をご紹介します。
今回は、ヨーロッパ各地にある博物館や記念碑を訪れて感じたこと、考えたことを取りあげます。
勉強になったこと、日本でもぜひ取り入れるべきだと思った工夫も多かったようですが、中には「あれ?」と首をかしげるようなこともあったようです(小野寺)。

博物館で一番印象的だったのは、ベルリンのユダヤ博物館でした。
ユダヤ人の歩んできた道の不安や迷いが体感するだけでも伝わるという建物の構造には、驚かされました。
「ホロコーストの塔」では、冷たい、光の少ない、閉鎖的な場所で、車の走る音など外の音、生活音が少し聞こえるようになっていました。ユダヤ人の暮らしのとなりには、普通の世界があったことを強く実感しました。
亡命を象徴する庭に出てみると、思っていたより傾斜があったのと、石畳になっておりうまく歩くことができませんでした。
展示の方法、建物の設計、カフェのランプなど細かいところまで考えて作られていて、これは何を表しているのかと考えて見るのが面白かったです(歴文3年Hさん)。

 

ドイツ・ボンの現代史博物館は、ヒトラーが死んだ後から東西ドイツの統一を経て現代に至るまでのドイツの歴史が、写真やポスターや手紙や車やおもちゃなどを使ってわかりやすく展示されていましたが、私がここで気づいたことは、東西ドイツは実はあまり変わらないということです。
研修旅行に行く前までは、西が栄えていて東が不幸というイメージが大きくありましたが、ここでは東ドイツと西ドイツが交互に展示されていて、時にこの展示が東西どちらかわからなくなってしまう程でした。
そして占領国によるポスターや西ドイツの選挙ポスターなどには、写真ではなく絵が使われていました。
これは写真より絵の方が表現の幅が広がりわかりやすいためであり、事実を写真を使ってより明白に伝えることより、大きなインパクトを伝えることの方が当時大切だったことを知りました(歴文1年Gさん)。

 

なかでも印象的だったのが、ドイツ・ヴァンゼー会議記念館で見つけた点字です。
もちろんどの国に行ったときにも障がい者のための環境づくりというのはされていましたが(身障者用のトイレや駅の点字ブロックなど)、改めて海外でも体の不自由な人のための取り組みがされていることが分かりました(心理2年Mさん)。

 

今回の研修の中で1番興味深かったのは、ベルリンの東ドイツ博物館です。
この博物館はその名の通り、東ドイツの世俗的な文化や日常生活を主に展示していて、日本と似て文献や文字資料で押すドイツでは珍しく体感型で、子供から大人まで幅広い層が楽しめる博物館です。
並べられた棚の1つを開けると当時流行していた女性服と靴がいっぱいに詰められていたり、当時のリビングやキッチン、トイレなどを再現した部屋でくつろいだりと、展示物にダイレクトに触れられてワクワクします。
特に日本では絶対に味わえない展示だと思ったのが、下図のコーヒー豆です。

これは東西ドイツにおけるコーヒー豆と麦の混合率の違いを表した展示で、右上の黒い穴の中に手を入れると各々コーヒー豆を掴み取ってその差を見て確かめることができます。
さらに手を穴に入れている間は上にある解説文が光って読めるようになります。
このように展示物、しかも食品に実際に触れて確かめられるという展示方法は日本では行っていません。
来館者が最大限に楽しめる工夫がされていると感じ、日本の博物館でも遠くから見ているだけではなく、この博物館を見習って体感型に特化した博物館を作るべきだと思いました。

ベルリン市内には博物館が100以上あります。
これはドイツ国民が自らの歴史観を徹底的に話し合った結果であり、ナチスドイツや東ドイツに関する負の側面を展示できるのもそのおかげだそうです。
私は今回の研修を通して、日本も国民全体で近現代の歴史観についてある程度共通した認識を持つ必要性があると改めて思いました。そのためには今日までに起こったあらゆる歴史的事象を、今度は教育の中に落とし込んでいくことが大切だと感じます(歴文2年Kさん)。

 

現地に直接赴いて私が新たに気付いたことは、ユダヤ人の記念碑などに対する現地の人々の向き合い方が、思っていたものと違っていたということです。
特にビルケナウのシャワー室に落書きがしてあったということには驚きました。
普通ユダヤ人が大量殺戮されたと聞けば、落書きなんてことはしないはずと思っていたのですが、案外そうでもないということに気づかされたのです。

さらに言えば、上の写真はユダヤ人のために作られた記念碑なのですが、この写真に写っていない箇所では、子どもたちが鬼ごっこをしていたり、私たちと同じ年齢ほどの学生がふざけて上に乗っかっていたりなど、この場所に来ている人たちのなかには真面目に見学している人が少なかったのです(歴文3年Hさん)。

 

 

今回の旅行では三つの国をまわり、それぞれの博物館を見ることができましたが、展示の仕方は様々で、ドイツのようにシリアスな現実をどーんと文章で展示するやり方と、オランダやポーランドのように実際に体験するやり方、わかりやすく、様々な工夫が見受けられ、視覚的に訴えてくるような展示の仕方があり、どちらが良いと言うには難しいなと身を持って感じました。
また、今回ナチスに関する場所を強制収容所をはじめ博物館など回ることができましたが、その中でこれらに対する現在の若者の態度というものも見ることができ、これに関しても新しい発見かなと思いました。
興味がなくて遊んでしまっていたり、記念碑の上に登っていたりと、私自身が勝手な思い込みで描いていた若者の像が崩れました。
自分がナチスについて興味があり勉強をしているからこそ、その物の価値や意味がわかりますが、興味がない人にとっては同じように映らないという当たり前のことですが、非常に悲しく感じました(歴文3年Iさん)。