前期特研(香港危機のこれから)続報 [2020年07月27日(月)]

東洋史教員の牧野です。6月24日に開催されましたオンライン特研「香港危機のこれから:デモから国家安全法へ」(本ブログ7月5日記事)に関し、講師の倉田徹先生から以下のお便りを頂戴しました。

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ご質問への回答
倉田 徹(立教大学)

6月24日の歴史文化学科特殊研究講座にご参加下さった皆様、ありがとうございました。その際にチャットで多数の質問を頂きましたが、時間の都合でお答えすることができないものも多くありました。大変遅くなってしまいましたが、その一部にお答えします。

Q.日本政府の香港問題での対応
5月28日に「国安法」制定が決定された際に外務省は中国大使を呼び出して憂慮を伝えるなど、過去の日本の香港問題での対応と比べれば強い反応をしています。ただ、米国のような制裁に踏み切ることはないようです。

Q.米国は中国を民主主義の国にしたいのか、なぜ中国はそれを拒むのか
民主主義国同士は戦争を回避することが政治学の理論でも言われており、米国にとっても民主主義国が増えることは利益になるでしょう。一方、中国が拒む理由は、共産党政権の指導者の立場になって考えるべきです。中国が民主主義になると言うことは、つまり、共産党政権を打倒して、革命が起きると言うことです。

Q.日本の賢い外交とは
民主主義国である日本にとって、周囲に民主主義国が多いことは、国際環境の安定をもたらします。一方、日本は民主主義国でない隣国に多数接しています。それらの国とも衝突を回避しながら共存せねばなりません。こうした複雑な環境にあっても、平和と安定をもたらすことができる外交が賢い外交だと私は考えます。

Q.「国安法」は、「一国二制度」の「五十年不変」の期限が終わることを見越した布石なのか? 香港人はどう考えているのか? 2047年が近づいたら香港人はデモをするのか?
私は、今回の中国の動きは、予定された通りの計画的な動きというよりも、むしろ香港で想定外の事態が発生したことに対する対応という側面が強いと思っています。本来、国家の安全についての法律は、香港が自ら制定することが想定されていました。
よく「2047年に香港はどうなる」という質問を頂きますが、上記の理由で、私は「分からない」としか答えようがありません。「中国は長期計画に基づく国作りをしている」というようなことを言う人もいますが、実態は、中国の改革・開放は「足場の石を探りながら河を渡る」と言われたような、少しずつ実験をしては、その時の状況を踏まえて臨機応変に対応するという形を取ってきました。香港問題もそうでしょう。今後20年以上の間に何が起きるかは、予測できないものと考えるべきです。なにぶん、今から2年ほど前には、香港政治は大いに安定していると言われていたのです。

Q. 2047年の香港の運命を私たちは変えられるのか? 香港人に逃げ場はあるのか?
英国や台湾などが「国安法」を受けて香港人の受け入れを拡大すると言っています。国際社会の圧力が、情勢によっては中国を変えることはできるでしょう。

Q.香港の考え方をインスタグラムなどのメディアで大陸に伝えることはできるか?
Facebook、Twitterなどと同様に、Instagramも大陸では禁じられていますが、一部の人たちは特殊な技術を使って見ています。ある程度のことを伝えることは可能でしょう。ただ、中国国内では香港のデモ参加者を批判する報道・情報が圧倒的に強く、デモ参加者を理解したり、支持したりする人は今のところは稀です。

Q.デモに参加することを香港の若者はどう考えているのか?
香港では年間10000件のデモが起きると言われます。デモに参加するのはごく当たり前、普通の行為です。実際、アジア各国の人々の価値観を調査した結果でも、香港ではデモに参加することが特に変わったことではないとして受け入れられていることが示されています。

Q.日本で報道されているものと、実際のデモの実態に違いはあるか?
日本に限らず、報道は概して激しいものや劇的なものを強調するくせがあるのは常識だと思います。ただ、だからといって報道が間違ってると考えて、その情報を避けるのは危険だと思います。こうしたくせを踏まえて、自分の判断力を動員して、慎重に情報を判断すれば良いのです。「報道はウソだ、実際はこうなんだ」と主張するようなネット情報は、大部分が報道以上に大きく偏っていたり、完全なウソであったりするものです。

Q.警察はなぜ同じ香港人のデモ参加者に、暴力を振るうのか?
重要な問題です・・・2014年の「雨傘運動」では、デモ参加者が「警察だって香港人」というコールをかけたところ、警察官が動揺して、厳しく取り締まることをためらったということがありました。そこで政府はこの「教訓」を受けて、この後専門のデモ鎮圧部隊を整備したのです。そこでは、単にデモを鎮圧する技術だけではなく、「暴徒」を鎮圧する任務を遂行せよとの、思想教育も徹底されていると言います。
しかし、こうしたことは決して、香港だけの問題ではありません。例えば、戦場で兵士はなぜ人を殺すのか。実際、訓練を受けていない兵士は、人を殺したくないため、「わざと」敵兵に対して撃つ銃弾を外すことも少なくないそうです。

Q.中国のような監視が、香港でも意識されているのか?
香港は非常に警察の多い都市であると言われます。中国大陸ほどではないものの、監視はかなり密に行われていると思います。

Q.デモの申請はどこに対して行うのか、申請すれば共産党に情報が漏れないのか?
香港ではデモ行進は警察に事前に申請し、許可を得ることが義務づけられています。返還前には一時期届け出制になりましたが、返還後に許可が必要な形に戻されました。これは人権の後退と見られますが、少なくとも昨年以前はデモが不許可になることは非常に少なく、許可を得た合法なデモは、警察が交通整理をして協力しました。これは日本も同様ですね。もちろん、警察に許可申請を出せば公開の情報になりますから、共産党を含め皆がデモの情報を知りますが、合法なデモであれば何ら問題はありません。しかし、去年の無許可の抗議活動の一部は、政府機関への突入などもありましたから、当然許可申請は出さずに、密かに計画されて、実行されるものでした。

Q.香港でデモ以外に声をあげる方法は?
完全な民主主義体制ではないですが、選挙が存在します。去年11月の区議会議員選挙では、民主派が85%の議席を得て圧勝しました。現在民主派は、9月の立法会議員選挙で、過半数の獲得を目指しています。

Q.周庭さんが逮捕される可能性は?
周庭さんはすでに3回逮捕されています。現在は裁判中で、違法集会の煽動の罪に問われています。

Q.デモ参加を理由に学校や会社を休むことは認められるか?
学校であれば欠席扱いになると思いますが、少なからぬ先生たちも、学生の行動を理解しています。企業は休暇を取らなければ欠勤になるでしょう。

Q.デモで日常生活に変化は生じたか?
衝突は全香港に広がりましたから、当時は多くの人が、家の近くで催涙弾が撃たれたり、交通が麻痺したりと、影響を受けていました。しかし、日本人なら怒りそうな状況になっても、香港人は比較的冷静に対応していたという印象です。もちろん、デモを支持していた人が多かったからではありますが、むしろ、災害が起きても定刻に出勤しようとして、電車が少し遅れるとすぐ怒るような日本人が異常なのかもしれないと思います。

Q.香港で行くべき場所は?
現在香港はコロナ禍のため、全ての外国人の入国をほぼ拒否しています。残念ですね。ただ、もし開放されたときには是非行ってみて下さい。観光スポットも多いですが、私が考えるに、香港は目的もなく街をぶらつくのが最も楽しいと思います。不思議な発見がいろいろあると思いますよ。


 

倉田先生にはご多忙を極めておられるなか、このたびも歴文生のためにご丁寧にご指導くださり誠に有難うございました。今回の特研をつうじて香港への興味関心を深めた皆さんは、この夏、倉田先生の以下の著作を読んでみましょう!

倉田徹『香港 中国と向き合う自由都市』(岩波書店、2015)

https://www.iwanami.co.jp/book/b226365.html

倉田徹・明子『香港危機の深層 「逃亡犯条例」改正問題と「一国二制度」のゆくえ』(東京外国語大学出版会、2019)

http://www.tufs.ac.jp/NEWS/notice/191227_2.html

ジョン・キャロル著、倉田徹・明子訳 『香港の歴史――東洋と西洋の間に立つ人々』(明石書店、2020)

https://www.akashi.co.jp/book/b516077.html