特殊研究講座を開催いたしました

こんにちは。歴史文化学科4年の百合園です。
2021年11月10日(水)に開催された歴史文化学科の特殊研究講座についてご紹介します。

今回は、宮城教育大学准教授の佐々木達先生にお越しいただき、
「中国モンゴル自治区における農牧業地域の変貌 -地理学からのアプローチ-」という演題でご講演いただきました。

皆さんは、中国モンゴル自治区(以下、内モンゴル自治区)と聞いて場所が思い浮かぶでしょうか。
内モンゴル自治区は、中国の北東部に位置している約1,183,000㎢(日本の約3倍以上!)の自治区で、区都はフフホト(呼和浩特)です。
大陸性気候であり、年間降水量は200~400ミリと少なく、植生はおおよそ草原と砂漠で構成されています。
総人口は2,470万人、うち蒙古族は422万人と約17%です。「内モンゴル自治区」という名前ですが、漢民族が圧倒的に多く、モンゴル民族は少数です。

今回は、そんな内モンゴル自治区における農牧業地域の変貌について、ヤギの牧畜をメインにお話し下さいました。
内モンゴルのヤギ、あまりピンとこないかもしれませんが、意外と身近なモノに関わりがあります。冬に着るカシミヤのニットやセーター、そのほとんどが内モンゴルで育ったヤギから採取された毛を使用しています。ちなみに、セーター1着作るためにヤギが3頭も必要らしいです。(カシミヤはヤギの産毛のみを使うので希少価値が高い)
特に内モンゴル産のカシミヤは高品質なことで世界的に人気です。
世界的に需要があるヤギの牧畜は内モンゴルの人たちにとって儲かる仕事であり、実際内モンゴルでのヤギの畜産頭数は増加傾向にあり、2000年代に入るとこれまでで最大の頭数を記録しました。

しかし、ヤギが増えると草原が減ります。現在、内モンゴル自治区では遊牧は行われておらず、定住化政策が進められています。ヤギが同じ場所に留まるため、ヤギが食べた草原が回復せず、砂漠化を引き起こします。この砂漠化は、春になると日本に飛んでくる黄砂の一因にもなります。カシミアと黄砂、意外なところで繋がっていることに驚きました。
中国政府は環境保全対策として植林や禁牧(草が成長する時期限定)などを行っていますが、難航しているようです。
その一因として、中国の巨大な格差社会があります。都市部と比較して圧倒的な所得格差がある内モンゴル自治区のような農村部で、ヤギの牧畜という儲かる仕事を制限されたくないと思う内モンゴルの人々の気持ちは想像できます。
「経済発展」と「環境保全」の両立は、世界的な課題です。内モンゴル自治区において、経済発展と環境改善は今のところ両立不可能な状態です。
しかし、内モンゴルで何度もフィールドワークを行った佐々木先生は、「凄まじい勢いで変化していく中国の社会情勢のなか、内モンゴルの人々のしなやかさと対応力は力強い。どういう状況になっても明るく生きていこうとする人々の姿に強く感銘を受けた。」と仰っていました。

今回の講演を通して、内モンゴル自治区と日本の意外な繋がりや、中国の目まぐるしく変化する社会情勢のなかで力強く生きる内モンゴルの人々について知ることができました。
佐々木先生、貴重なお話をありがとうございました。