2023年度FD講演会

2023年6月21日(水)16:30~17:30
場所:グリーンホール
テーマ:ディープ・アクティブラーニングによる高大接続―対話型論証を中心に―
講師:松下佳代先生 (京都大学大学院教育学研究科 教授 )

本講演会では、教員、学生にとって、実りあるアクティブラーニングを実践するにはどのような工夫が必要なのかについて、「対話型論証」の手法を中心に、高大での実例を交えて、ご講演頂いた。概要は以下の通りである。

ディープ・アクティブラーニングの考え方
現在、大学では、学生の能動的な授業参加を促す手法として、アクティブラーニング型の授業が広がっている。一方、大学生の学習・生活実態調査によると、学生たちの学習意欲は、「楽に単位が取れるほうが良い、自主性よりも、先生に指導をしてもらう方がよい」というような消費者化が進んできている。
 このように日本の学習文化が変化している中で、現状のアクティブラーニングの問題点は次の三つを挙げることができる。一つ目は、知識(内容)と活動の乖離である。表面的な活動はあっても学びがない、というのがこれに当たる。二つ目は、グループワークを実施したときの、フリーライダー問題等、受動的な参加態度。三つ目は、アクティブラーニング型の授業を好まない等、学習スタイルの多様性への対応である。
 これら問題を解決するために、「ディープ・アクティブラーニング」の考え方を導入したい。「アクティブラーニング」というと、グループワークやディスカッション等、外から見たときに活発なことと捉えやすい。しかし、本質的には、内的に、つまり頭と心が活発に動いている状態をいかに引き起こすことができるかということが重要だと考えられる。つまり、外的活動だけではなくて内定活動においてもアクティブであることを目指す、というのが「ディープ・アクティブラーニング」という言葉の目指すところである。

対話型論証
 ディープ・アクティブラーニングの実践手法の一つとして、「対話型論証」を提案する。対話型論証は「ある問題に対して、他者と対話しながら、根拠をもって主張を組み立て、結論を導く活動」を意味し、基本構造は、「論証モデル」や「三角ロジック」がベースとなっている。このモデルの中には、論理的思考や問題解決、コミュニケーションなどの要素が含まれている。
 対話型論証モデルを使った実例として、「―Fukushima Nuclear Flowers-マーガレットの帯化現象」が紹介された。インターネット上に掲載されているマーガレットの画像が、別人の言葉によって、当初の意図とは違う、誤った主張がなされている場合、私たちは、この対話型論証モデルを使うことで、客観的に事実や根拠、対立する主張を整理することができる。ポスト真実(post-truth)の時代には、誰かの主張の正しさを確かめたり、自分自身が正しく主張したりするには、まさしく、この対話型論証の手法によって、科学的、学問的に推論することが大切であると言えよう。
 大学の授業での活用事例としては、レポート分析演習で活用することで自己評価と教員評価のずれを解消することができることや、専門ゼミナールでの活用によって、批判的に読み、論じ、書く力にも効果的であることが紹介された。
すべての教育は、他者と対話しながら、自分の頭で意味を理解し、推論できるようになるような、「深い学び」へと結びつけることが大切である。深い学びの為の中核的な活動として「対話型論証」を活用することは、様々な学問分野や学校段階で使えるだけでなく、社会に出ても、仕事や日常生活の中で物事を考えるときの軸になるといえる。
以上の講演後、質疑応答が行われ盛会のうちに終了した。