2026年度FD講演会

日時:2026年6月10日(水)16:00~17:00
場所:グリーンホール
講演者:大森 不二雄 名誉教授(東北大学名誉教授、人律人材アカデミー所長)
演題:「AIが存在する世界で問われる人間存在と大学教育の課題~人が主役の共創・協働に必要な力を培う学習の設計へ~」

今回お招きした大森先生は、高等教育、教育政策の専門家であり、生成AIが高等教育や学生の思考力に与える影響について、いち早く研究を行なった方である。本講演では、AIに関する事例紹介を中心に、AI時代における大学教育の課題についてご講演いただいた。
以下が概要である。

1) まずはChatGPT出現後まもなくの2023年に、全国の学士課程学生4,000人に学生調査と問題意識調査を行った。その結果、以下のような回答が得られた。
・大学生のChatGPT使用率40%
・レポート等(途中の提出物含む)でのChatGPT利用率15%
・利用者の9割前後は適切な使い方をしていると回答
・利用者の7割以上が自分の能力形成にプラスだと思うと回答

2) スマートフォン・SNSによって学力は低下している。AIが出現した当初は整理された文章や理論に触れることで、文章力・思考力の低下を打ち消す可能性が期待されていた。しかし必要に迫られない限り、それらの力を鍛錬する目的として活用することは広がらなかった。原因として以下の点があげられる。
・SNSの自動的行動との結び付きは、熟慮・理論的思考と相性が悪い
・AIは認知負荷を低減するだけに留まり、深い学びへの誘導に直結しない

3) AI事業の規模が拡大するとともに、雇用状況や採用方法に変化が生じている。例として、以下の事例を紹介した。
・AnthropicやOpenAIが「AI社員」概念を推進し、雇用への影響が懸念されている
・簡易業務がAIに置き換わることにより、新卒や若手採用への打撃が強まる見方がある
・就職活動時のAI面接導入により、公平性や信頼性への懸念が生まれている

4) AIが存在する世界で人間が維持、強化すべき部分は力と学習である。AIの言語能力は人間の最上位層に位置付くが、概念間の関係理解や抽象的推論及び知覚推理に弱点が残存すると言われている。例として、AIと学習に関する研究では以下のような結果が出ている。
・AIを使用することで質の高いレポートができるが、負荷低減は必ずしも深い学びに繋がる訳ではない
・AI利用頻度が高い若年層は、既に批判的思考スコアが低くなっている
・人類全体がAIを使用し始めることで思考が均質化され、イノベーションが起きにくくなることが懸念されている。

5) 大学教育においては、AIという存在を念頭に置いた授業設計が求められる。
・学生に求められること:AIに囚われすぎずに、思考を拡張し知的に成長する必要がある
・教員に求められること:AIを使用しない、もしくはAIを有効活用するといった、AI前提の授業設計へ転換することが必要である
・大学に求められること:AIリテラシーの教育や画一的なルールの周知だけでなく、学習に必要な認知負荷をかける授業設計を教員に求めることが必要である

1)〜5)の内容で、本公演ではAIが存在する世界で問われる大学教育に関する重要な示唆が投げかけられた。時間いっぱいの講演となり質疑は割愛となったが、今後の授業設計を考える上で有意義な講演となった。