管理栄養学科 准教授の小西香苗です。2024年度の1年間、昭和女子大学からサバティカル研修の機会をいただき、英国サウサンプトン大学MRCライフコース疫学センターに研究留学をしてきました。
今回は、その中でも特に研究生活についてご報告します。
世界的なDOHaD研究の拠点へ
留学先のMRCライフコース疫学研究センターは、私の専門分野のひとつであるDOHaD(ドーハド)研究が盛んな研究所です。DOHaD研究とは、胎児期や乳幼児期の栄養や環境が、大人になった時の健康や病気のリスクに影響するという考え方に基づく研究です。たとえば、「お母さんのお腹の中での栄養状態が、子どもの将来の肥満や生活習慣病に関係する」といったことが明らかになっています。つまり、DOHaD研究は将来かかるかもしれない病気を予防するヒントを探る学問ともいえます。
国際共同研究NiPPeR Studyへの参加
私が今回参加したのは、NiPPeR Studyという国際共同研究です。この研究プロジェクトはDOHaD研究の最新の知見に基づき、妊娠を計画している女性に協力してもらい、妊娠前・妊娠中・出産後のデータをきめ細かく収集し、さらに生まれた子どもたちを現在(7、8歳)まで追跡しています。この結果は、例えば、妊娠前のお母さんの栄養状態が改善されると早産リスクが大きく低下し、その子どもの幼児期の肥満リスクも低減するという重要な成果が得られています。
私はこれまで日本で取り組んできた妊娠性貧血に関する研究を基に、英国では複数のバイオマーカーを用いた解析に挑戦しました。特に、経時的なデータを扱うライフコース疫学の統計手法「マルチレベル分析」を学ぶことは大きな課題でした。日本で使ってきた統計解析ソフトと異なるソフトのコマンドに苦戦しましたが、統計学者のサポートを受けながら試行錯誤を重ねることで、新しい手法を体得できたのは貴重な経験でした。
研究者として求められる力
研究生活で改めて痛感したのは、英語力そのものよりも「研究について論理的に議論できる力」の重要性です。意見を正確に伝えるのは容易ではありませんでしたが、粘り強く取り組む中で少しずつ壁を越えられました。今もホスト教授と気軽にやりとりできているのは、この時期の積み重ねのおかげだと感じています。
英語での日常的なコミュニケーション能力はもちろんですが、それ以上に研究でのディスカッションができる力が強く求められました。自身の研究テーマに関する意見や考えを論理的に言葉や文章で表現し、正確に伝え、意見交換をすることは、最も大変だと感じ、日々向き合っていたことでした。この大変な時期を乗り越えたからこそ、今もホスト教授と気軽にやりとりできているのは、この時期のコツコツ粘り強く学び続けた日々のおかげだと感じています。
英国でのこのような研究生活から、学び得たことは多く、学生さんたちに伝えたいことはたくさんあります。一番は「覚悟をして向き合うこと!」でしょうか。また、「あきらめないで集中して、とにかくやってみる!」、そして最後は「日本人として誇りをもって生活する」です。
海外生活では日本の常識は通用せず、トラブルや予想外の出来事が多々起こります。そのたびに怒ったり、日本を懐かしく思ったりしていても何の解決にもなりません。脳内のデフォルトを日本設定から英国設定に変えて、何事も英国のスタンダードだと受け入れ、覚悟して向きあうことです。デフォルトを英国に変えると、日本がいかに良く組織化された、優しい社会であるかを再発見します。また、英国で身につけたい新しい解析法では、使ったことのない解析ソフトを使いこなすところからのゼロスタートでしたが、あきらめないである時期はそのことだけに集中して没頭することで、良い方向性を導き出すことができました。あきらめる選択はいつでも簡単にできます。あきらめない選択をしてとにかく集中してやってみることが重要だと再認識しました。最後は、日本人がほとんどいないサウサンプトン大学医学部では、私はマイノリティーで、中国人と間違えられることはあっても、最初から日本人として認知されることはありませんでした。それ故、私の言動はある意味、英国人に「日本人とは」と印象付けることにもなり、意識して高い日本文化、日本人の礼儀正しさ、丁寧さ、繊細さなどを大切に生活していました。多くの英国人が日本に興味を持ち、良いイメージを持ってくれています。日本人としての誇りは日々意識して生活していました。
最後に
今回の経験を通じて、「グローバルに挑戦する力」の重要性を強く感じました。こうした貴重な機会を与えてくださった昭和女子大学に感謝しつつ、これから学生さんにこの学びを共有し、教育や研究に活かしていきたいと思います。