<研究室便り>
10月3日、朝6時の新幹線に乗って、伊勢に行ってきました。伊勢は来年のサミット開催地に決まった風光明媚な観光地でもあり、近年ではパワースポットとしても知られた場所ですね。
この伊勢市内には古くから能や狂言が継承されています。それらは、一色能・通り能・馬瀬狂言の三つの団体ですが、それぞれの芸を一度に観ることができるのが、「伊勢の伝統の能楽まつり」です。今回は4時間にわたる上演の撮影のため、いせトピアに足を運びました。
まず、一色能こども教室の生徒さん達(今回は運動会シーズンと重なり、例年より少なかったのが残念でしたが)による仕舞から始まり、独吟「半蔀」、仕舞「千寿」(通り能)、連吟「海人」・「融」、仕舞「女郎花」、半能「田村」(一色能)などが演じられ、小学生からご高齢の方まで、大きな能舞台で、日頃の稽古の成果を存分に発揮されました。
そして馬瀬狂言は「雷」「水掛婿」「文荷」の三番、盛りだくさんのプログラムでした。伺ったところでは、今年の秋祭りは一番のみの上演であったとのことで、今回の公演が今年初めての大舞台だったそうです。
さて、演じられた曲について、簡単に紹介します。
「雷」にはなぜか痛風持ちの雷様が登場します。たまたま雲の切れ間から落ちてしまい、ちょうどそこを通りがかった医者に薬をもらったり、針を打ってもらったりして、何とか天上に帰ることができるというお話です。
馬瀬狂言「雷」
雷様に人間の薬や針が効くところもおもしろいのですが、曲の最後、雷様が天上に帰る前に一悶着起こります。医者から治療代を請求され、雷様は困ってしまいます。そこで、眷属を引き連れ御礼に来ることを提案すると、医師は一人落ちるのさえ大変なのに、大勢の雷が落ちたらどうなることかと断ります。そこで、雷様は改めて医者の願いを聞き、五穀豊穣となるように計らってくれる約束をして、天上に戻っていきます。
人と雷が普通に会話している場面もよくよく考えると面白いのですが、狂言に登場する雷や鬼はこのように人間的なところを持っています。こうした役柄は、鬼や雷の姿ではあるものの、描かれるのは人としての営みの一場面であり、人間の本質を笑いでくるみながら描く、狂言ならではの登場人物であると思います。
この他にも、聟と舅が田んぼの水を取り合う「水掛聟」や、主人から預かったラブレターをいい加減に取り扱い、しまいには「風の便り」などといって、扇で扇いで届けたことにしてしまう太郎冠者、次郎冠者の活躍(?)を描いた「文荷」など、楽しい演目が続き、会場は和やかな笑いに包まれました。
馬瀬狂言「水掛聟」
馬瀬狂言「文荷」
馬瀬から応援のために駆けつけた方々とも会場でお会いするができました。
いつものことながら、これらの伝統芸能が、それぞれの地域で育まれたものであることを改めて感じると共に、こうした上演の場に立ち会える喜びをかみしめた伊勢での一日でした。
(山本晶子)