国語科教材研究「浦島太郎裁判」

〈日文便り〉

10月10日国語科教材研究受講者と一緒にチャレンジしたのが「浦島太郎裁判」。昔話を真面目な裁判にしたNHK教育番組「昔話法廷」。「いつか授業で」と思いつつフィットする素材を探求中、ついに出会ったのが「浦島太郎裁判」である。被告は乙姫。「地上に帰る」と別れを告げた浦島を、玉手箱を使い殺害しようとした罪。「乙姫を刑務所に入れるか?執行猶予にするか?」学生たちは、裁判官・検察官・弁護人そして原告の浦島、被告の乙姫、そして弁護側証人カメになって真剣に裁判に臨む。この法廷ドラマ最大のウリは、判決が視聴者=私たちに委ねられていることだ。学生演じる法廷シーンを終えたところから、最大のミッション、判決に向けてのディスカッションがはじまる。「浦島の人間性に問題があっても殺人は許されない」「裏切られたからと言って殺害を考えるのは短絡的だ」と最初は「刑務所にいれる」意見が圧倒的多数。ところが中盤から風向きが変わる。「最初は殺意があったにしても開けないでと玉手箱を開けることを止めようとしたのは、自身の行動に対する反省の表れだ」「乙姫を傷つけ子どもを置き去りにした浦島の行動は同じ女性として怒りを覚えます」さらに「生まれた子どもを母親から引き離すことが子どもにとって本当によいことなのだろうか?」この発言を契機に、執行猶予が妥当とする意見が続いた。「自身のエゴで殺人を企てた人間が刑務所に入らずに本当に自身の罪と向き合えるのか?」という発言が深い対話をさらにドライブしていった。実際に「昔話法廷」というステージに立つことで、立ち位置によって見えてくる世界が大きく異なることを実感したという学生たちのコメントが私自身にとっても大きな学びとなった授業だった。

  

(青木幸子)