〈研究室便り〉
こんにちは。古典文学担当の山本です。
日本語日本文学科では、学科独自のプロジェクト活動を行っていますが、
その中の「日本文化発信プロジェクト」のアドバイザーでもあります。
このプロジェクトは、日本の古典芸能の一つである狂言を海外の人に紹介することを目的として
活動しています。
皆さんは、狂言ってどのような芸能か知っていますか。狂言は、室町時代に成立した喜劇です。
古典芸能というと、専門のプロの役者が演じる舞台を思い浮かべるかもしれませんが、
それだけではありません。地域の中で伝承されているものもあります。
今日は、その一つである伊勢市馬瀬町で演じられている馬瀬狂言を紹介します。
9月16日、伊勢市駅から車で20分程の馬瀬町公民館を訪れました。
この日は馬瀬町の秋祭りで、馬瀬狂言が披露されます。
三重県の無形文化財に指定されている馬瀬狂言は、江戸時代からこの地で演じられていたようで、
江戸時代後期の台本が多数残っています。現在は馬瀬狂言保存会の方々によって伝承されています。
さて、今年の秋祭りでの演目は、「膏薬煉」と「棒縛り」の二番でした。
「膏薬煉」の膏薬とは貼り薬で、膏薬煉はその膏薬を作って商う人のことです。
都の膏薬煉と鎌倉の膏薬煉が旅の途中で出会い、どちらの膏薬が優れているのか、
勝負することになります。
それぞれ(左:都の膏薬煉、右:鎌倉の膏薬煉)の薬自慢を披露し合い、
その後、どちらの薬が優れているのか、一番強い膏薬を貼った白い紙を鼻につけ、
吸わせ比べ(薬の力でものを吸い寄せたり、離れさせたりすること)をします。
最後に鎌倉の膏薬煉が転んでしまい、終曲となります。
この曲の前半の見所に、自分の膏薬がいかに素晴らしいものなのかを自慢し合う場面があります。
現代でも、他人によく見られたい、興味を持ってほしいといった時に、
話を誇張して話す(いわゆる話を盛る)ことはありそうなことですね。
この自慢話の中には、膏薬の材料として、「雷のまつげ」とか「海の底に生える竹の子」とか、
おかしなものが出て来ますので、ぜひ耳を傾けてみてください。
もう一曲の「棒縛り」は、主人の留守の間に盗み酒を繰り返す太郎冠者と次郎冠者が登場します。
盗み酒を知った主人は、二人を縛って出かけますが、懲りない二人は縛られた姿でもお酒を飲もうと
する曲です。
まずは、棒を使うのが得意だと自慢する太郎冠者(中央)が縛られ、
その後、次郎冠者(中央)も主人(右側)に縛られてしまいます。
その後、縛られた姿でお酒を飲み、
最後は縄をほどいてしまい、二人で楽しく酒盛りです。
この縄をほどくという演出は珍しいもので、普段よく見る舞台では、最後まで縛られた姿で、
何とか知恵を絞ってお酒を飲む演出となります。
主人が帰宅して酒を飲む二人を見つけ怒り出しても、太郎冠者は杯を手放しません。
何としてでもお酒を飲もうとする二人の姿がおかしさを誘います。
この2曲を見てもわかる通り、何か自慢したがったり、お酒が大好物だったりと、
狂言は日常の些細な出来事を笑いに包んで描くドラマです。
古典芸能というと、何か難しそうに思われるかもしれませんが、実際鑑賞してみると、
現代に通じるところもたくさんあります。
こうした魅力が、馬瀬狂言のように、地域で伝承され、演じ続けられている理由の一つだと
思います。
興味をお持ちになったら、ぜひ能楽堂に足を運んでみてください。
(YM)