〈授業風景〉
日本語学の科目の一つですが、内容はパソコンと向かい合っての作業が大半です。
データを集めて分析する、というのは研究の基本。
ただの作業結果の報告や感想に終わることなく、きちんと「研究」ができるよう、
3,4年生を対象に電子化されたデータの使い方や、統計の取り方を学んでいきます。
近年、データを基にした客観的な研究がなされるようになり、
日本語の研究でも数値やグラフを目にする機会が増えています。
そうなると、「数との付き合い方」もしっかり考えなければならなくなります。
きちんと数値化したら、客観的な議論ができるように見えますが、
実際はそう単純な話ではありません。
例えば・・・
ある単語について、2つの作品においてその出現頻度に差があるのかを調査するとします。
分母をそろえるため、作品Aも作品Bも1万語分、調査したとしましょう。
そして、調査対象とした単語は作品Aでは51回、作品Bでは49回出現した、
という結果が得られた場合を考えてみましょう。
この結果に対し、まずは「作品Aの方が多く出現する」と言えます。
しかし一方で、1万分の51と1万分の49って、「ほぼ一緒」じゃないか。
誤差みたいなものだし、両者の数値がぴったり一致する方が奇跡に近い。
だから、「AとBには差がない」とも言えそうです。
このように、数としては動かしがたく「51」「49」という「客観的な」結果が出ますが、
その「評価」の仕方には、主観が入り込む余地があります。
数さえ出せば客観的なように見えますが、結論をどちらに持っていきたいか次第で、
「一方が多い」とも、「両者に差はない」とも言えてしまうんです。
そこで本当は、「どのくらい差があったら、差があると認めるべきか」などまで決めていかなければなりません。
・・・こんなことを考えていくのがこの授業です。
紙と鉛筆ではなくパソコン画面、内容は国語というより数学、と、
いつもとはちょっと雰囲気の違う時間です。
とはいえ、受講生のすべてがパソコンが得意なわけでも、数学が得意なわけでもない。
むしろ、パソコンや数学から縁遠い学生たちが、自分たちの研究分野に必要な形で、
苦手だった分野の力をつけていく時間と位置付けています。
少人数、わからない仲間同士、という安心感もあって、活発に質問も出ます。
受講にあたっては数学もパソコンもできなくていい、わからないからできるようになるための時間です。
方法(料理の仕方)が身につけばいいので、調査対象となるデータ(食材)は自由。
この時間内に自分の興味のある研究対象の研究を進めることもできますし、
この授業の手法を使って、卒業研究につなげていった先輩方もたくさんいます。
作業をしながらなので自然と学生とのやり取りも増え、
いつもの講義とは違った時間が流れる授業です。
(SN)