<日文便り>
日文開講科目「ことばと社会」は、韓国人留学生4名、中国人留学生1名を含む56名が受講しています。
日本、韓国、中国、そこで育まれた文化に触れてきた受講生が、ことばとしぐさの持つ意味の相違について意見を交換しながら学んでいます。
そこに今回、中国の大連理工大学で日本語を学ぶ皆さん(以下、大連の皆さん)10数名が参加してくださいました。
授業時には、受講生のキョ・ハイゲンさん(日文3年生:右写真)に授業内課題の目的や指示、学術用語などの翻訳などをお願いしました。そこでの翻訳の苦労話や、授業の様子をインタビューしたものを報告します。
以下、キョ・ハイゲンさん(H)、担当教員宮嵜(М)
М:今回日本語を中国語に翻訳していただくにあたり、不安だったことはありましたか?
H:皆さんN1(日本語能力検定)程度の語学力を持っているので、日本語の聞き取り自体は大丈夫だと思っていました。ただ、既に「ことばと社会」を受講してきた私たちと違って、授業の流れとスタイルがはじめてである可能性を心配していましたが、積極的に解答してくれていました。
「虫の音」は雑音?
М:そうでしたね。例えば鈴虫など「虫の音を聴く文化」が中国にもあることなど、男性の方が積極的に答えてくれていましたね。
H:私は大連にある高校に通っていましたが、確かにその文化はあります。
М:そういった文化が伝承されているならば、日本と同様、大連の皆さんも「虫の音」から何等かのメッセージを受け取り、雑音ではなく言語音と同じように左脳で処理している可能性があるかも知れませんね。
風に飛び込む蛙は何匹、どんな? –「古池や蛙飛び込む水の音」-
М:松尾芭蕉の俳句「古池や蛙飛び込む水の音」の情景を頭でどうイメージしているか、という課題についてはどうでしたか?
H:これは私にとっても、とても興味深い課題でした。
М:まず、「蛙」の数の表し方について、例えば英語では名詞と動詞との関係で、名詞(ここでは「かわず」)を単数形・複数形にするかを明確に示さなければなりません。
中国語では明確に単数形か複数形で示す必要があるか、事前にハイゲンさんに相談しましたね。
H:数の示し方について、中国語の場合は特に数を示さない時には単数形で示します。それ以外は常識的な考え方の数を採用する場合が多いと思います。もしくは文脈により、個人個人の感覚の差があることを考えて翻訳のお手伝いをしました。
具体的には、できるだけ学生さんの想像に任せるように、翻訳する時は語彙だけを示したり、様々な翻訳された文章を個人個人に見せたりしました。
大連理工大学の学生さんたちが描いたイラストからも楽しんで取り組んでいる姿が読み取れたと思います。
飛び込む様子とオノマトペ
✒英語の場合
М: 英語に翻訳されたもので、蛙が「Flogs」と複数形になっていたり、飛び込む様子を「splash(ざぶん)」「plop(どぶん)」と表現したものを読んだことがあったので、私自身はその“常識的な数”、と、“飛び込む様子”をどう想像するのかという点に興味がありました。
大連のみなさんで「複数」の蛙を描いていた方はいませんでしたね。日本チーム、韓国チームも同様でした。
H:中国語にもオノマトペはありますが、例えば「ぽちゃん」という音に対して抱く共通の認識が、日本語のようではないと感じます。人によって感じ方が様々というか…。
М:オノマトペの奥深さをあらためて感じますね。オノマトペが豊富なのは日本語のひとつの特徴ですが、「ぽちゃん」以外にも、日本語ならばオノマトペで表現する様子を、中国語、韓国語ではどんな表現で表すのか、ことばとその周辺について、また授業で意見交換してみたいですね。
日本、韓国、中国、それぞれの文化圏で育った人たちが、それぞれ誰から教えられたわけでもなく、どのような音を「言語」とするか。さらにはある表現から同じような情景を描く(書く)不思議をどう解釈するか。文化の伝承がもたらす不思議を、今回、大連の皆さんが授業に参加してくださったことにより、より深く考えるとても素晴らしい機会となりました。
下次再见面吧!
「ことばと社会」23年度受講生一同・宮嵜由美