この授業では、江戸怪談の代表作である『雨月物語』を、「物語」「注釈」「研究」の三段階に分けて読んでいます。受講生は55名で、日文49名、歴文6名、学年別では3年生40名、4年生15名という構成です。
(1)物語を読む
『雨月物語』は、佐藤春夫、谷崎潤一郎、芥川龍之介、三島由紀夫ら近代作家にも愛読され、現在でも漫画や舞台、歌詞などに取り入れられています。物語そのものの面白さに加え、「雅文脈に漢語を交えた無感動な彫刻的文体」(三島由紀夫)とも評された美しい文章や、人間の執念・倫理・道徳といった普遍的なテーマも大きな魅力です。そのため、本授業ではまず古典文学としてではなく、一つの物語作品として作品を味わい、原文と現代語訳を照らし合わせながら内容を理解していきます。
(2)注釈を読む
『雨月物語』は和漢の古典を巧みに織り込んだ作品です。注釈をたどることで、一字一句の背後に広がる豊饒な文学世界が見えてきます。受講生の多くは、それまで注釈を意識して読んだ経験がほとんどありません。しかし、注釈を一つ一つ確認しながら作品を読むことで、読む前と読んだ後とでは理解の深さが大きく異なることを実感し、古典文学における注釈の重要性を学んでいます。
(3)研究論文を読む
三回目の授業では、事前に原文・現代語訳・注釈を確認したうえで、「自分ならどのような研究をしてみたいか」を考えてもらいます。そのうえで、先行研究の概要を紹介し、実際の研究論文を精読します。授業後は、作品理解がどのように深まったか、また論文の構成や論の立て方から何を学んだかをリアクションペーパーにまとめてもらい、知識や情報の整理につなげています。
受講生の中心は3・4年生であるため、卒業論文のテーマ探しや研究方法の習得にも役立つことを期待しています。また、受講生それぞれが異なる関心や研究視点を持っており、リアクションペーパーからは互いに刺激を受けながら学んでいます。
教員一人対受講生多数という関係ではなく、教員と受講生が互いに刺激し合いながら、ともにこの授業をつくり上げていきたいと考えています。今週は第三篇の「浅茅が宿」を読んでいきます。読み終えたとき、皆さんの心に何が残るのか、今から楽しみにしています。
◎受講生のリアクションペーパー紹介(一部抜粋)
・原文はリズムや言葉の響きがきれいで、特に和歌の部分は雰囲気がすごく伝わってきた。ただ、内容を理解するのは難しくて時間がかかった。現代語訳は意味が分かりやすくて読みやすいけど、その分、原文の持つ独特の重さや雰囲気は少し弱くなると感じた。
・もちろん現代語訳のほうが意味はわかりやすい。しかし、原文の方は文章のリズム感などが良く、「荊蕀薜蘿」や「宿世の業」「終夜」など、単語の小気味良い感じや響きの美しさなどがより優れていると思う。
・今回「白峯」の頭注を通読してみて、一番印象に残ったのは、物語の周りにある歴史・和歌・能・中国思想などが全部絡み合って作品ができているという点だった。最初は正直、「注釈って補助説明でしょ」という感覚だったけれど、読んでいくうちに、注釈込みで作品世界が立ち上がっている感じがして面白かった。
・頭注を読むことで、中国文学や和歌、歴史書など様々な作品が重なってできていることも分かり、「白峯」は読む人の知識によってどんどん見え方が変わる作品なのだと思った。最初は難しい作品という印象だったが、今は何回も読み返したくなる作品という印象に変わっている。
・頭注はボリュームがあり、それだけでも作品としてかなり充足感があると感じていた。「白峯」を普通に読み進めるには、私には知識が足りなさすぎであり、わからないまま進むことが物語の面白さや魅力を損わせているのだと正直に感じた。ただ、こうした知識のない読者を対象にはしないという姿勢も、上田秋成が狙っていたものかもしれないとも考えられる。
・頭注を読むことは単なる補足ではなく、作品世界をより深く理解するために重要な要素なのだと実感した。これからは物語の内容だけを追うのではなく、頭注も含めて丁寧に読み進め、作品をより深く精読していきたい。
・各ゼミや学科での着眼点の違いは、非常に勉強になる。歴文の方たちからも、歴史を語る文学作品と称されており、自分にはない発想で刺激を受けた。
・リアクションペーパーで紹介された論文化の案は、それぞれの専攻分野ならではの視点が反映されており、非常に興味深かった。特に言語分野のゼミ生が、作品中の文字表記や語句の選択に着目して考察していた点は、自分にはなかった視点であったため新鮮であり、言語表現そのものから作品を分析する方法に学ぶところが多かった。今回の紹介を通して、一つの作品でも研究者の視点によって多様な論点が生まれる面白さを改めて実感した。
・「軽薄の人」に関するみんなの考えがとても面白かった。私にはない発想ばかりで新たな視点を獲得できたし、今に至る研究でも明確な答えが出ていないことを考えると、これは上田秋成から読者への挑戦状であるのだと思った。大きな謎があることで、それを解き明かすために何度も読み返す、議論を交わす、新たな見方で読み返す。何度も作品を楽しむためのきっかけになるのだと思う。
・私は今回授業を聞き、改めて作品一つとってみても様々な研究テーマが見つかるものだと思った。自分ひとりでは頑張っても二つくらいしか思いつかなかったが、古典系のゼミの人から見れば「月」が使われている場所から特色を見出そうとしたり、言語系のゼミの人は使われている言葉の読みと表記に着目して、どちらが先に出たのかを調べようとしている人もいた。私は文学系のゼミなので言葉がどうやってできたのか等は研究対象にならないが、言葉によって文学作品にどのような影響があるかは研究できると思った。まだ卒論でどのように書いていこうかが決まっていない為、この授業で文学作品をどんなふうに論文化することができるのかを様々な視点から知ることができるのはとても助かると思った。
・論文の書き方として、章ごとに疑問と問題提起、回答、それに対する反論と、とても読みやすく、それでいて簡単になりすぎないまとまりのよい文章だと考えた。感覚的なものだが、句読点が丁度よい位置にあって読んでいて頭に入って来やすい。
(李國寧)