卒業生 観世流シテ方能楽師 雲龍櫻子
「永遠の命とは 人魚と菊と太宰治」 受験生「能と狂言の公演」ご招待!
こんにちは。日文の卒業生、観世流シテ方能楽師の雲龍櫻子です。
「シテ方」というのは、「能・狂言」の「能」の分野で、主役を担う役職のことをいいます。「室町文化の中、観阿弥・世阿弥父子が大成した芸能」である能楽は、男性役者のみで演じられてきた歴史がありますが、現在は女性の能楽師も多く活躍しています。
12月8日(火)千駄ヶ谷の国立能楽堂にて、私の所属する能の会「久習會」の公演があり、不老不死の不思議な少年の話「菊慈童」という演目の上演をします。
プレゼント企画(日文学科受験生(高校卒業生・高校2年・1年も対象)とその保護者様(ごきょうだい同伴も可)を公演にご招待)もありますので、ぜひ最後まで読んでください。
みなさん突然ですが、映画「ちいかわ 人魚の島のひみつ」はご覧になりましたか。人魚伝説の八百比丘尼(やおびくに)やヨナイタマにも繋がる「永遠の命とは何か」というテーマの映画でした。映画中での「永遠の命」のキーワードは「タンサン」でしたが、能「菊慈童」では「菊の露」です。
「菊慈童」は中国のお話です。魏の国、文帝の臣下が「不老不死の薬水」を求めて深い山奥に行くと、700歳の少年「慈童」に出会います。慈童は、周の国の穆王(ぼくおう)に仕え、小姓として寵愛を受けていましたが、ある時、皇帝の枕をまたいだことを不敬罪として周囲に咎められ、山奥に流刑になってしまいます。
別れを惜しんだ皇帝は、二句の経文を添えた枕を慈童に持たせます。その経文を菊の葉に書き写したところ、その露が薬水となり、飲んだ慈童は不老不死の身となったのです。慈童は文帝の臣下に出会うまで、流罪になってからすでに700年も経過し、己の身はもはや人間を超越したものになっていることを知らずにいました。最初は驚く慈童ですが、やがてすべてを受け入れ菊の花に戯れながら山奥へ消えていきます。
この作品は江戸時代頃から、前半の慈童が捨てられる場面はカットされ、後半の魏の文帝の臣下と出会う場面のみの上演になりました。悲しいあらすじや背景は省き、永遠の命の祝言性と菊に戯れる少年の美しさをクローズアップさせたのでしょう。
ちなみに、岐阜県飛騨地方の郷土料理「朴葉(ほおば)味噌」や卓上料理のための「朴葉焼きコンロ」「飛騨コンロ」の装飾は、「菊慈童」の台本がデザインされているものが多いです。この作品が多くの人々に愛されてきたことがわかります。
いかがでしょう、「お能観てみようかな」と思われましたか?
ところで、菊ってほとんどがビニール栽培ですし、野生の菊ってあまり見ないですが、太宰治はこのように言っています。
『太宰治語録』(小野才八郎・津軽書房)
「芸術というのはね、たとえば真っ黒な巌に白菊一輪といったものだよ。下にどっしりしたものが無くてはいけないんだ」と。続けて芸術家の気構えについて、そばの画集のある絵を指し、「芸術家というものはね、ほらこれを見てご覧、岩陰に隠れて笛をふいている化け物みたいなのがいるだろう、表では人魚が、笛を聴いている。芸術家はこのもののように、陰にいて他を楽しませればよい。人前に姿を現さないものなんだよ」と言った。その絵は、世紀末派の画家として知られるベックリンであった。
「芸術」とは「真っ黒な巌に白菊一輪」、「芸術家」とは「岩陰に隠れて笛を吹いている化け物」であるべきと述べています(この化け物は半獣神「牧神パン」を指します)。
この内容に関心を持って研究を進めたのが、芥川賞作家でもある芸人の又吉直樹氏です。又吉氏は、文中の絵が「春の夕べ」である可能性を示し、またその絵を、ビートルズのジョン・レノンが自身を牧神パンに見立て、フォトコラージュにしたことも指摘しています。つまり、太宰治とジョン・レノンは「芸術家」は「陰にいて他を楽しませればよい」という同じ意識を持っていたのではないか(でもちょっと目立ちたがり屋なところが憎めない)、と又吉氏は語ります。
私は日文在学中に文学と美術の関連について多くを学びました。森鴎外や夏目漱石の西洋美術への関心と作品への反映、泉鏡花と日本画家の交流など、「文学と美術」を学んだことは、今の日常をとても豊かにしてくれます。
映画「ちいかわ」を観ていたら、鴎外はベックリンが好きだった、漱石の『三四郎』にも「マーメイド」とつぶやく場面があった、鏡花と交流のあった鏑木清方の絵に「妖魚」という作品があったと思い出し、映画がより楽しくなりました。
私達の日常である映画・アニメ・漫画・音楽、お菓子やお酒の名前、日用品には、いたるところに文学と芸術の愉しさが潜んでいます。それを発見する力となるのが学問研究です。
どう…ますますお能、観たくなってきました?
最後までお読みくださりありがとうございました。
ささやかではありますが、日文の受験を志す受験生のみなさまに、12月8日(火)のご観覧券をプレゼントいたします。ぜひ伝統芸能をご鑑賞ください。
プレゼント企画(日文学科受験生(高校卒業生・高校2年・1年も対象)とその保護者様(ごきょうだい同伴も可)公演ご招待)へのお申し込みは、ここをクリックしてください。
卒業生 観世流シテ方能楽師 雲龍櫻子