June, 2021

2021年6月30日学長ブログ [2021年06月30日(Wed)]

■女性教養講座から報告

 昭和女子大学の「女性教養講座」では、本学独自のプログラムとして、学問の分野にこだわらず、広い領域で活躍している著名人をお招きし、「女性の心を育む」ことを目的とした講演を実施しています。6月16日(水)の女性教養講座では、東大作上智大学教授が「世界平和研究における日本の役割、若者への期待」というタイトルで、オンラインで講演されました。私は、東先生の世界平和に貢献するための日本の役割についてのご意見に共感し、是非学生には世界的課題にも関心を持ってもらいたく、講演をお願いしました。
 世界中で起こっている紛争の多くは内戦であり、2014~2016年には3年連続して10万人を超える犠牲者が、そして2019年には7000万人を超える難民が発生しているとのことです *¹。東先生は、そのような世界中で起こっている紛争を和平に導き、平和を構築するプロセスで、日本はグローバルファシリテータとしての役割を果たせるというご意見を持ち、アフガニスタンや南スーダン、イランなどでの紛争の和平プロセスを例にあげて説明されていました。話の随所に若者へのメッセージが盛り込まれており、大変明解で示唆に富む講演でした。当初、私はこの講演はテーマが大きく深刻であるため、学生は関心を示さないではないかと少々不安でしたが、それは杞憂でした。今回の講演はコロナ禍のため、オンライン開催となりましたが、事前に質問者として応募してくれた3人の1年生以外にも大変多くの質問がチャットに書き込まれ、予定時間を大幅に超えても質問に答えきれないほどでした。質問がしやすいこともオンライン講演のメリットであると実感しました。また、何よりも多くの学生が世界平和に関心をもち、自分に何ができるのかを考えていることがわかり、私はとても嬉しく思いました。
 東先生の講演を受け学生から「将来世界平和に貢献するためには、今はしっかり学び、実力をつけることが重要である」との意見がありました。私も同感です。学生のみなさんには大きな夢を抱いて、しっかり勉強していただきたいと思います。
 本学の創立者人見圓吉は、第一次世界大戦後の荒廃した日本でこれからの平和で新しい文化を担うことができる思慮ある力強い女性の育成を目指しました。創立101年が経った今も建学の精神を引き継ぐこの昭和女子大学から、次世代を担い、世界的課題の解決にも貢献できる力強い女性が多く輩出されることを願います。

*¹ 東大作著「内戦と和平 現代戦争をどう終わらせるか」(中央公論新社、2020年)


東大作先生の著書と望秀海浜学寮で制作されたブーケ

2021年6月7日学長ブログ [2021年06月07日(Mon)]

<教職員インタビュー>
このブログでは本学の教職員や学生のみなさんの活動を紹介したいと思います。今日は、英語コミュニケーション学科の山本史郎教授にお話を伺います。

■プロフィール
小原: まず、山本先生の研究について聞かせてください。
山本: 研究分野は「翻訳論」です。英語の文章をどのように訳すか、日本の翻訳は歴史的にどうであったかを研究する分野ですが、私は主に前者を中心に研究しています。当初は19、20世紀の英文学が専門だったのですが、コンピュータを趣味にしていた私は、大学の改組で言語情報学に方向転換することになりました。そこでコンピュータ言語を教えるようになり、サーバーの管理までしていました。しかし、ようやく英国に留学する機会を得たのを機に、本格的に翻訳を始めました。そういうわけで、東大で「翻訳論」を教え始めたのは20年くらい前からです。翻訳は翻訳経験の蓄積が役に立つので、英語力、文章力は経験を積むほど年々進化しています。だから東大時代より昭和女子大学でのほうが、翻訳能力が高くなっていると思います(笑)。
小原: 先生が翻訳された中でご自慢の本を紹介してください。
山本: トールキンの「ホビット」ですね。この本は原作の絵も入っていてきれいです。これの翻訳は2か月間、毎日十何時間もの時間をかけて改訳したもので、文章が正確でわかりやすく、あいまいさのない訳になっています。「赤毛のアン」も訳しています。サトクリフもいっぱい訳しており、自分でも好きです。最近出版した「翻訳の授業」もなかなかよいですよ。

■昭和女子大学で教壇に立って
小原: 本学で教えられて如何ですか。
山本: 今、研究と授業を熱心にやっていますが、授業は楽しいです。本学の学生は講義に興味をもってよく聞いてくれます。特に1年次のクラスでは、テキストを訳し自分の言葉で内容を紹介することをやっていますが、自分の言葉で説明するところが、単なる訳になってしまい、始めは難しいようです。しかしリアクションもよく、だんだん学生が成長し変わっていくのがよいですね。
小原: 自分が教えた学生が成長するのを見るのは教員冥利につきますね。

■研究の楽しみ、趣味について
小原: ところで、先生の研究のなかでどんなところが楽しいのでしょうか。
山本: 英語を日本語に訳しかえるプロセスが楽しいです。文章のどこに力点をおくか、センテンスのつなぎ方をどうするかなどを考えるのが楽しいです。そういえば朝日新聞の「朝日ウィークリー」に短い英語の文章を訳すレッスンの記事を書いているのですが、この作業もなかなか楽しいです。翻訳は感性だけではなく、理論的に考えることも必要です。
逆にきつかったことは、人気作品を訳した時、昔の訳本での読者ファンから厳しく批判されたことです。
小原: なぜ英文学の道を選んだのでしょうか。
山本: 高校生時代は京都大学で中国文学を学びたいと思っていたのですが、叔母から東京大学を強く勧められ、東大に入学しました。初めは仏文学をやろうとしたのですが、仏文学をやる学生たちの気質を見て、自分はちょっと違うなと思い英文学にしました。
小原: 先生の趣味、好きな言葉があれば教えてください。
山本: 小さい頃、ヴァイオリンを習っていたのですが、60歳ぐらいから再びヴァイオリンを始めました。こどもが使っていたヴァイオリンが家にあり、この音色がすごくきれいなので気持ちよく弾けるのです。(小原注釈:先生のお子様はヴィオラ奏者で、ときどきオーケストラでアルバイトで弾いているそうです)
好きな言葉は“Don’t take yourself too seriously”、「自分を笑う余裕を持て」と訳しましょうか。(さすが、翻訳家ですね・・小原)それと、「失望することがあっても絶望するな」、原点回帰で何もないところ(たとえば、生きているだけで有難い)から始めようという意味です。実際に私はそう思うようにしています。

■学生へのメッセージ
小原: 昭和女子大学の学生にメッセージをお願いします。
山本: ダブルディグリープログラムについては、こんな良い制度はないと思います。学生は恵まれています。ボストン留学についても、いきなり一人でアメリカ社会に出される前に、ゆるやかな形でトレーニングできるのがよいと思います。できる学生には他の選択肢もあります。また、他の大学と比べ、本学の教員は学生に親身になってサポートしていると思います。
学生に対してのメッセージとして、学生のみなさんは群れたり他の人と同じようにしたがる傾向がありますが、他の人にこだわらずにもっと自由に発想したり、自分自身で物事を考えてほしいと思います。

小原の感想
 実は、山本先生は私と同じ高校の出身でしかも同期です。ベビーブーム末期の当時は1学年12クラスもあり、同じクラスになったことはなく面識もありませんでした。けれどもある時、私の好きな英国の歴史小説家で児童文学者でもあるローズマリ・サトクリフの本の奥付にある訳者紹介から山本先生が高校の同窓生であることを初めて知りました。因みに高校生のころ、学園祭で同じく同窓生の澤和樹氏(ヴァイオリニスト、東京芸術大学学長)とヴァイオリンのデュエットをしたことがあったそうです。私も同じ場所にいたのではないかと思いますが、全く記憶にないです。
 山本先生が翻訳について語られた時、最良の訳を目指して呻吟しながら思考する作業の楽しさが実感として伝わってきました。私がもし学生であったなら、山本先生の授業を一度は受けたかったと思います。山本先生、有難うございました。