千鳥ヶ淵の桜見物に行った。まだ蕾で残念だったが、昭和館で「紙芝居展」をやっていて、おまけに南京玉すだれ・バナナの叩き売り・針金細工の実演まであったので、懐かしさに負けて充分愉しんでしまった。そのうえ、針金細工の唯一の継承者という86歳の細工師から「三輪車」を貰ったので嬉しくてたまらなかった。
でも、紙芝居の名作『黄金バット』は面白かった記憶はあるが齣切れの光景しか思い出せなかったし、ヒロインは澄江さんだったか確認したくなり、また貸本漫画コーナーに展示されていた『墓場鬼太郎』の第1話が知りたくなったので、古書店街を抜けて明治大学のマンガ図書館に行った。
ここは日曜日も開館していて、部外者でも300円払うと閲覧できるので時々利用している。その日は閲覧者が数人いたが、笑いを押し殺しながら、しかし全身に笑いが充満している女子高生の姿が面白く、「まんがより面白いぞ」としばらく見物してしまった。
水木しげるの『墓場鬼太郎』を読みはじめてすぐ、こどものころ夜中にトイレに行けなくなったことを思い出した。『黄金バット』は永松健夫作を読んだが、わたしの知っている『黄金バット』とは違うようだった。子どものころ見た紙芝居の『黄金バット』は鈴木一郎原作・加太こうじ脚本のものだったのかも知れない。
マンガ図書館を出て錦華公園で一服していたら、さっきの女子高校生が近づいてきて、「ひみつ道具―!」といいながらポケットからどら焼きを出して、くれた。「『よいこ』を読んでたんだな?」というと、「あったりイイ―!」と声がはずんだ。そして、ドラえもんの食べていたどら焼きはこし餡に違いないとか、CMの妻夫木は適役だとか、アラレちゃんのあられは柿の種に違いないとか、ドラゴンボールのブルマの好物は苺なんだとか、8日の花まつりはおじいちゃんと祐天寺に行くんだとか、頼みもしないのに自説を展開すると、「寒くなったから帰る。ドラえも―ん、ぽっかぽかマフラーほっしいよ―」といいながら去って行った。
今年の4月1日は、まことに面白い一日だった。8日は浅草寺に行って、電気ブランにしょう。そのころには墨堤の桜も満開だろう。
(歴文・仏教文化史担当・関口靜雄)