仏教と温泉

 皆さんは深大寺温泉をご存じだろうか。14年ほど前にボーリングして掘り当てたそうで、温度は40度以上もある。水質は、ナトリウムや塩化物を含んだ茶色い温泉水だ。効能はあらゆるものに効き、特に疲労回復や神経痛に良いらしい。

 或る財団から奨学金を貰った時、同じ受賞者にハーバード大学で仏教と温泉の関係について研究している若い仏教研究者がいたことを思い出した。彼の名はダンカン・隆賢・ウィリアムズ。今日本中の温泉に入りまくっている、と笑いながら話していた。彼によると弘法大師などの真言宗の僧侶が、日本の風呂文化のなかで浄めと癒しという概念を普及させたというのだ。聖水の歴史は世界各地に古くからあるが、彼は日本人と温泉に関して仏教的見地から研究していて面白いと思った。

 温泉で、もう一つ思い出す話がある。場所は、インドだ。驚く人も多いだろうが、実はインドにも温泉がある。古代インド・マガダ国の首都であるラージギル(王舎城)だ。或る新月の夜、宿の主人がここにも温泉があると言うので力車を呼んで行ってみた。星明かりを頼りに、村の暗い夜道を15分ほど行くと温泉の入口に着いた。さほど大きくもない穴に石段があって、ろうそくの光を頼りに手探りでそろそろと下っていくと、暗闇にインド人の大きな目だけが異様に白く浮かび上がった。勿論、服を着たままの入浴だ。彼等は、突然外国人が入ってきたのでびっくりしたようだった。湯加減は、ちょっと温めだったが心地は悪くはなかった。思えば、パキスタンでも温泉に入った。やはりどこでも、温泉は極楽!極楽!
(仏教思想と文化 早田