西洋史の三大学共同ゼミ合宿

こんにちは。西洋史の小野寺です。
ちょっと前の出来事になりますが、8月上旬に行われた三大学共同ゼミ合宿について、お話ししたいと思います。

このゼミ合宿は、共立女子大学の西山先生、立正大学の森田先生と私の三人で、三年生を対象にやっているものです(昨年の様子はこちら、三大学共同ゼミの趣旨についてはこちら)。
毎年、西洋史において議論の絶えないテーマを一つを取り上げ、(1)そのテーマについて事前学習したうえでプレゼン→(2)その情報をもとにグループワーク→(3)最終的にディベートするという形式をとっています。

今年のテーマは、

「宥和政策やミュンヘン会談はやむを得なかったのか」。

ヴェルサイユ条約を破棄して再軍備を宣言し、非武装地帯であるラインラントに進駐し、チェコスロヴァキアのズテーテン地方割譲を要求するなど、領土拡大の野心をあらわにしつつあったヒトラーに対し、譲歩を重ねてしまったイギリスとフランス。これは果たしてやむを得なかったのか、あるいはやはり当時としても誤った判断だったのか。

ウクライナ問題でロシアに対して国際社会がどう対応すべきかという点とも重なる点が多く、非常にアクチュアルなテーマでもあります。

このテーマに対し、まず事前学習ではドイツ班、イギリス班、フランス班、イタリア班と4つの班に分かれて、各国の立場から宥和政策について学びました。下の写真は、最優秀プレゼン賞を獲得したイタリア班のもの。単に情報を提示するだけでなく、そこから結局どういうことが言えるのかということまできちんと考えられた、いい発表でした。

その後は、KJ法というグループワーク。詳しくは昨年書いたとおりですが、まずは各人が思いつく論点を書き出し、それをみんなで共有し、グループ化したうえで概念化し、そこから自分たちの主張をくみ上げていくというプロセスになります。

今年の学生がとくに素晴らしかったのが、その熱意!!
プログラム自体は21時で終了なのですが、学生はその後も自主的に集まり、班によっては深夜1時くらいまで、次の日のディベートに向けての準備をしていました!
明日はどういうことを主張しようか、相手は何を言ってくるだろうか、それに対してはどう反撃したらよいだろうか。そんなことを熱心に話し合っていました。
「ミュンヘン会談の是非」などという「硬」くて、それほど身近でもないテーマでここまで一生懸命やってくれるとは、正直教員の側も考えていなかったので、ちょっと感動してしまいました。↓はその様子。

そして翌日はいよいよディベート。「ミュンヘン会談は当時としても誤った判断だった」「必ずしもそうとは言えない」という二つのグループに分かれて、議論を戦わせます。

裁判官役も、もちろん学生がつとめます。

ディベートについては、いろいろ課題がありました。合宿の後、学生のみなさんから寄せられた感想として、とくに以下のようなものが印象的でした。

・その場でいきなり質問されたことについて、臨機応変に答えることが難しかった。

・ぱっとその場で理解することが難しく、議論の早さについていけなかった。

・自分の言うことに自信がなく、つい黙ってしまった。

・本は沢山読んだのだけれど、それを「生きた知識」にするのが難しかった。必要なときにその知識をすぐに引っ張り出せなかった。

・自分の意見を言うことだけでなく、人の話をきちんと理解することが大事だと思った。相手の主張をきちんと理解できなければ、こちらが何を言っても主張がかみ合わず、議論がうまくいかない。

・事前にグループで情報や認識をきちんと共有していないと、うまくいかない。

いずれも、非常に重要なことばかりですね。
とくに5つめ、ディベートというのは自分の言いたいことをいうだけではダメで、相手の主張を理解しなければいけないというのは、あらゆるコミュニケーションの基本のようなもので、改めて認識しなければいけない点だと私も感じました。
とにかく、こういうことに自分で気づけたのが、この合宿最大の効果かなとも思います。
自分に足りないのはどういう点なのかを知り、そのためにはまず場数を踏んで、こうしたことに徐々に慣れていくこと。
そういう場を提供するのも、大学教育の大事な役割なのだなと、私自身も再認識させられました。