磯江毅の番組ができるまで

8日の「NHK日曜美術館」の放送のことを松田先生が載せてくださったので、それを受けて番組が完成するまでのエピソードをいくつかお話します。

磯江と知り合ったのは30年前の留学中のことでした。そのとき磯江は27歳だったはずです。そのとき以来、磯江とはマドリードで会うたびに、ワインを飲みながら夜を徹して絵の話をしていました。

磯江が逝ったのは5年前でした。その2年後に関係者の尽力で画集『磯江毅 写実考』(美術出版社)が出版され、さらに昨年、練馬区立美術館と奈良県立美術館で回顧展「磯江毅=グスタボ・イソエ マドリード・リアリズムの異才」が開催され、予想をはるかに上回る入場者がありました。私たちは、展覧会の時期に合わせてNHK の「日曜美術館」で磯江の番組を作ってもらいたかったのですが、諸般の事情でそれは叶いませんでした (「アートシーン」では展覧会の紹介がされましたが)。

しかし今年になって、ディレクターのKさんの熱意が実り、磯江毅の番組の制作が決まったのです。こんどの番組で私が一番うれしかったのが、磯江が影響を受けた画家アントニオ・ロペスと磯江の親友の画家マヌエル・フランケロのコメントが番組に活かされたことです。マドリードでそれぞれ30分以上のインタヴューを撮影し、今回そこから番組にふさわしいシーンを選びましたが、使ってもらえたのはそれぞれ2分程度でしょうか。それでも磯江毅という画家が、日本の枠に止まらず、スペインでも認められていたことが伝わったのではないかと思います。(ロペスの油彩画とフランケロのデッサンが長崎県美術館に所蔵されています。)

番組の中ごろで金曜3限の「伝統文化の現場」の講師のひとり、画家の石黒賢一郎先生も登場します。

磯江毅の絵、よろしければ見てください。

木下 亮