私の蔵書から

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教員の掛川典子です。今春私の蔵書に Codex Manesse 関連の文献が加わりました。インゼル出版社の『マネッセ写本』(Codex Manesse 1988 Insel Verlag)から少しご紹介します。『マネッセ写本』とはハイデルベルク大学所蔵の歌謡写本で、神聖ローマ帝国皇帝を排出したシュタウフェン朝の宮廷文化を伝えるミンネザングの集大成されたものです。フリードリヒ1世バルバロッサの婚姻が南フランスの宮廷風恋愛文化をこの王朝に持ち込み、その息子のハインリヒ6世の細密画からこの写本は始まっています。女性が婚姻によって文化を運ぶのです。ハインリヒ6世の妃はシシリアの王女コンスタンツェであり、そこから、エルサレムを無血開城させて法王から破門され続けた、かのフリードリヒ2世の栄光と遺児達の悲劇が流れ出します。この写本の2枚目の細密画は、ホーエンシュタウフェン最後の王コンラーディンを描いています。コンラーディンはルイ9世の弟シャルル・ダンジュー軍に破れて、1268年にはナポリで斬首されました。まだ16歳でした。『平家物語』の敦盛を思い出してしまいます。彼は2編のミンネザングを残し、描かれたのは鷹狩りです。最後まで一緒だったバーデンのフリードリヒを随行させており、猟犬を連れ、ともに騎乗で白い鷹を操っています。黄金の盾の十字架はエルサレムの覇権を表しているそうです。フリードリヒ2世の『鷹狩りの書』も有名で、鷹狩りはドイツ中世を代表する王侯貴族の文化の一部でした。鷹狩りは4000年も昔に中央アジアで生まれ、日本にも伝播して、文書は平安時代からあり、宮内庁に保管されています。『とりかえばや物語』を題材に、漫画家のさいとうちほさんが連載中の『とりかえ・ばや』の第1巻にも、鷹狩りの場面が書かれています。現在は女性の鷹匠も活躍していらっしゃるそうですね。

『マネッセ写本』には、トーナメントは勿論、チェスのような盤上の遊びをする恋人達が描かれたり、2名の女性だけが描かれている1枚もあります。後者は実在の女性詩人ではなく、貴族の母親が娘を教育している場面だそうです。写本自体は14世紀初頭にチューリヒで編纂されました。ホーエンシュタウフェン王家は断絶して久しく、かつてコンラート4世にも仕えていたハプスブルクのルドルフ1世が1273年にはドイツ王として即位し、時代はすでに激しく変化していました。スイスの人々はシュタウフェン朝の文化の繁栄を愛惜していたのでしょう。近代にワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』や『パルジファル』といった作品に結実することになる、ドイツ中世の騎士道文化の担い手の詩人たちも写本には描かれています。あっちの頁こっちの頁と見ていくのは楽しいです。

 

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