アウシュビッツの今昔

歴史文化学科1年のO.Aです。私は今回、10月5日に朝日新聞で掲載された渡辺丘さんの「ホロコースト教育 岐路」の記事を読み、主題に挙げられているアウシュビッツと現地で触れた経験をふまえ、自分の考えを述べたいと思います。勉強不足ですが読んでいただくと幸いです。

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私がアウシュビッツを訪れたのは4年前の春でした。日本では桜が咲いている時期なのにもかかわらず、ポーランドのクラクフの空港に着いたとき飛行機の窓から雪が降っていているのが見えて、驚きを隠せませんでした。ポーランド入国の次の日に幼いころからの念願であったアウシュビッツ・ビルケナウ収容所に行くことができました、当時の私はホロコーストに関する様々な本を読んでいるからアウシュビッツを知り尽くしているというとても傲慢な考えを持っていましたが、やはり肌で感じる情報量は本の情報よりはるかに多く、初めて知ることに驚愕しました。例えば囚人は点呼のために長いときは一時間以上外で立たされていると聞いてもガス室ほどあまり深刻にとらえられたりしませんが、靴下を三枚重ね履きして厚いコートを着た私でさえ外にいた数時間で頭痛を起こすほどの寒さの中、パジャマのような薄い囚人服に粗末な木靴で彼らが外に立たされていると思うと意識が遠のく思いでした。また立ち牢と呼ばれる90cm×90cmの狭いスペースに四人が押し込まれる牢を見たとき、思った以上に狭い空間と周りを囲っているレンガを見てこのようなものをよく思いつき、造れる人間の愚かさに怒りを覚えました。また展示室ではぎとられた彼らの私物の中で名前の書かれた鞄はとても衝撃的でした。その鞄を見ると彼らはアウシュビッツに送り込まれる前には人生があった、なのにホロコーストが全てを奪った、アウシュビッツはもう二度と起こしてはいけない、人の人生を奪うようなことは繰り返してはならない、と強く思った瞬間でした。

アウシュビッツでは負の遺産の恐怖とともに、今後のアウシュビッツの課題を突き付けられた気がします。まず第一に見学者の中で東洋人と黒人の少なさです。東洋人は私が入っているツアーのメンバーと旅行で来た日本人女性2人しか見かけませんでしたし(日本人は高齢者が多く、若者があまり訪れないという問題もあります)、黒人とアラブ人は皆無でした。ポーランドまで行く旅費がないこともあるでしょうが、やはりまだアウシュビッツの情報がそんなにヨーロッパ以外の国々に浸透していないのと、ホロコーストまたはアウシュビッツが政治的なやり玉に挙がっているのが原因で感情的になってしまう国々が多いのではないかと思いました。他にも展示品が多く置いてあるアウシュビッツ1号館は、見学者が非常に多く並ばなければ見れない展示もあったのに対し、囚人たちが実際使っていたバラック(バラックの壁の木材は戦後周辺に住んでいる人々に持ち去られてしまったので現在残っているものは厳密には復元)と爆破されたガス室と記念碑があるアウシュビッツ2号館・ビルケナウ収容所はイスラエルの国旗を持ったイスラエル人の見学者しか見られませんでした。展示物だけではなく、囚人たちが実際にいたバラックや、トイレ、ベットも見てほしいと思いました。

アウシュビッツからでるとポーランド人のガイドさんがオシュフィエンチムの街について色々語って案内してくださいました。オシュフィエンチムは200年間オシュフィエンチム公国の首都であり、とても古風で美しい町でした。このような美しいところからあまり離れていないところにアウシュビッツ収容所があるのが想像できないくらいでした。ですがアウシュビッツの傷跡は想像以上に街の人々に影響を及ぼしていました。例えば観光客は来るが、アウシュビッツ収容所に来たらすぐ帰ってしまうことや、観光客がアウシュビッツを気味悪がってホテルがあまりできないことや、収容所の近くに教会を造ろうとして反対されたりと、オシュフィエンチムの方々の不満は結構大きいです。オシュフィエンチムとアウシュビッツが共存するためには課題が多いと感じました。

本題の「ホロコースト教育 岐路」ではイスラエルの高校生3割がアウシュビッツ収容所を訪れていると書かれていました。しかしアウシュビッツ収容所を訪れることで若い学生が感情的な影響を受けやすいことや、愛国心教育がつよすぎるという理由で中止する学校が出始めているらしいです。それはドイツでは市民からの運動で収容所訪問に対する歴史教育が起こっているのに対しイスラエルでは政府主体で政治色が強いのが原因でないかといわれているらしいです。実際イスラエルの政治家が政治状況とホロコーストを絡める発言が多いそうです。アイヒマン裁判があるまでイスラエルの中でホロコーストがタブー視されていた歴史から見ると皮肉なものです。しかし私はアウシュビッツ収容を若いうちに訪れるべきという意見には賛成です(イスラエルの国家の重要性を理解するためという考えは考慮にあまり含まれませんが)。それはやはり現地を直接訪れ、肌で感じることはとてもいいことであるし、本や映像だけでは知ることのできない情報を得ることができると思うからです。自分自身も(アウシュビッツとはルーツが無縁ですが)ショックは大きかったですが、その分人間とは何か、なぜこのようなことができたのか、なぜ周りがそれを許したのか、と深く考えることができました。犠牲者を憐れむだけではなく、未来の犠牲者を生まないために我々は何が原因であったと考察し、行動しなければならないと思いました。

この記事を書いている間にアメリカでは、トランプ氏が次期大統領に決まりました。彼は演説で不法移民は追放すると言っていました。忘れてはいけません、ナチスの最初の段階はユダヤ人追放でした。悪い方向に行けば70年前と似たようなことが起こるかもしれません。そのことを防ぐためにも歴史を知り、考えなければならないと思いました。

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写真:小野寺拓也先生撮影