東洋史ゼミの紹介

■東洋史ゼミの紹介

歴史文化学科教員の牧野元紀です。今回は私の担当する東洋史ゼミをご紹介します。本学科創立以来初となる本格的な東洋史専攻のゼミで、今年度スタートしたばかりです。私自身は近代のアジアにおけるキリスト教の布教活動とそれぞれの布教先での社会と文化の変容に関心を抱いています。これまではベトナムの北部を主要な調査対象としてきましたが、現在は他の東アジア・東南アジア諸地域や太平洋島嶼にもフィールドを広げています。

 

さて、日本における「東洋史」とはおおむね日本と欧米以外の国々・地域の歴史を指します。しかし、欧米の大学では日本史も東洋史のなかに含まれます。東洋の英訳はOrientですが、欧米では一般に中東地域をイメージする言葉であり、東アジア・東南アジア・南アジアについてはAsiaと言ったほうが適切です。他方、中国で「東洋」というと、一般に日本を指します。中国からすると東の洋(海)にある国ですから自然な考え方です。「西洋」といえば、すぐに欧米世界が連想されるのに比べると、「東洋」は非常に曖昧で多義的な言葉といえるでしょう。

 

東洋史ゼミに所属する皆さんの問題関心や卒論のテーマも時代・地域ともに多様性に富んでいます。今は3年生だけですので、これから卒論の執筆に向けて歴史学の具体的方法論を学んでいます。アメリカの大学で歴史学を専攻する学部生向けに書かれたMary Lynn RampollaのA Pocket Guide to Writing in Historyを頑張って輪読しています。

 

今回のブログでは東洋史ゼミの雰囲気を読者の皆様にお伝えすべく、現役のゼミ生に順番で執筆してもらいました。まずは、日本の東洋学を代表する研究機関・専門図書館である東洋文庫に附属する「東洋文庫ミュージアム」を全員で見学した際のレポートから始めて頂きましょう。

 

■東洋文庫ミュージアム見学

こんにちは!東洋史ゼミ3年の元理歩です。私は大航海時代に中国・日本からヨーロッパにもたらされた陶磁器から見るヨーロッパにおけるアジア観を卒論テーマとしています。

 

私たち東洋史ゼミの学生は、ゼミ研究の一環として東洋文庫ミュージアムの見学会をしばしば実施しています。今回は、2018年1月18日〜2018年5月27日に開催されていた「ハワイと南の島々展」の紹介をさせていただきます。

 

太平洋にはいくつもの島々が浮かんでいます。それらへの美しいイメージはあっても、なかなか歴史や文化に触れることはないのではないでしょうか。この展示会では、そんな歴史・文化を、かつて現地へ訪れたヨーロッパの宣教師や冒険家たちの記録などから知ることができました。

 

印象に残っているのは『キャプテン・クック航海記図版集』のタヒチ島の踊りが描かれた挿絵です。サイズは大きくなくても、とても細かく描写されていて、描かれた女性の優しげな笑みがとても印象的でした。人々の文化や歴史以外にも、極彩色の羽をもつ鳥などの珍しい動植物を記録した図鑑の展示もされていたため、よりいっそう南の島々への憧れ・興味をかきたてられます。

 

そしてこの展示はハワイ日系移民渡航150周年を記念して開催されていましたので、ハワイと日本の関係も見ることができました。ハワイは現在も日本人が多く訪れる人気の観光地ですが、両者の歴史的関係をあまり意識していなかったため、あらためて知ることができて良かったと思います。明治時代に日本の皇室とハワイの王室との婚姻話が持ち上がっていたことを知り、それが実現していたら今頃はハワイに行くときはパスポートがいらなくなったかもしれないという話にはとても驚きました。

 

東洋文庫ミュージアムの展示は所蔵する文献をメインとするため、絵画のような華やかさはあまりありませんが、ゆっくりと落ち着いて見学をして、歴史に思いをはせるにはぴったりな場所だと思います。今後も面白い展示が続きます。来年度から歴文生はキャンパスメンバーズで入場無料となります。ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

東洋文庫

http://www.toyo-bunko.or.jp/

東洋文庫ミュージアム

http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/museum_index.php

 

■ゼミ旅行 ①天草キリシタン館

東洋史ゼミ3年の佐藤萌々恵です。私は「日土(日本・トルコ)交流」の礎を築き、両国の架け橋となった日本人の山田寅次郎についてエルトゥールル号事件から日土貿易協会設立までを段階別に調査し、そこから見えてくる日土交流の実像を卒論のテーマとしています。

 

この夏ゼミ旅行を実施しました。旅行先は日本のなかでも昔から東西文化の交流が盛んで、その史跡が多く残る熊本県の天草を訪れました。潜伏キリシタンの関連遺産がちょうど世界遺産に指定されたばかりで注目の集まる島でもあります。

 

1日目の9月18日に私たちは「天草キリシタン館」を訪れました。天草キリシタン館には島原・天草一揆で使用された武器や国指定重要文化財の『天草四郎陣中旗』、キリシタン弾圧期の踏み絵、隠れキリシタンの生活が偲ばれるマリア観音など約200点が展示されています。

 

私たちは館長である平田先生からレクチャーをしていただき、天草島原一揆を中心とした天草キリシタン史について学びました。その中でも私は江戸幕府による禁教政策下において密かにキリスト教の信仰を継承した潜伏キリシタンの独自の文化的伝統や既存社会・宗教との共存がとても印象に残っています。

 

また、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として天草が世界遺産の登録を受けたことに関する意見交換を行う機会もありました。平田館長の世界遺産推進室長としての取り組みや世界遺産登録に至るまでの困難と登録後の課題、保存と活用のバランスなど座学だけでは得ることの出来ないリアルな学びは貴重な経験となりました。

天草キリシタン館

http://www.city.amakusa.kumamoto.jp/kirishitan/

 

■ゼミ旅行 ②天草市立本渡歴史民俗資料館

東洋史ゼミ3年の栗原彩香です。纏足からみた近代における中国女性の生活と社会的位置づけを卒論テーマとしています。

 

私たちは2日目の午前中に天草市立本渡歴史民俗資料館に行きました。天草地方の民具、民芸品、生活用品などの資料が約3,800点収蔵されており、天草全体の歴史の流れを知ることができます。

 

大陸との交流を物語る縄文時代の大矢遺跡、古墳時代の妻の鼻古墳群の出土遺物等も展示しています。1階は天草の歴史、2階は民俗資料を主に展示しています。天草の民家を再現したコーナーもあり実際に体験することができるのも魅力の1つです。天草の古代から近現代にいたる歴史の流れを知ることができる資料館となっています。

 

展示を見学した後、資料館のご厚意で会議室をお借りして、参加者が今回のゼミ旅行で与えられた各自の調査課題を発表し、お互いに調査で用いた参考文献を紹介しながら、天草とアジアとの歴史的な深いつながりについて意見・情報の交換を活発に行いました。

 

資料館の目の前は海です。

入り口には熊本県を代表するくまモンが並んでいました!

 

■ゼミ旅行 ③天草コレジヨ館

東洋史ゼミ3年の魚取諒です。私は李朝時代の朝鮮半島における女性の社会的役割を卒論のテーマにしています。

 

私たちは2日目の午後に天草コレジヨ館を訪問しました。ここでは16世紀以降、天草に伝えられた南蛮文化の資料が多く展示されています。

 

日本史の教科書でおなじみの天正遣欧使節の少年たちが持ち帰ったグーテンベルクの活版印刷機を用いて天草で刷られた「天草本」の複製や、復元されたグーテンベルク活版印刷機そのものが特に見応えがあります。他にも南蛮船の模型や当時のキリシタンが演奏したであろう西洋古楽器の複製、天正使節団の関連資料も多く展示されています。いずれも間近で見学することができます。

 

■ゼミ旅行 ④崎津教会

東洋史ゼミ3年の吉田菜々です。私は日本と中国沿岸における東インド会社と海賊との関係を卒論のテーマとしています。

 

天草コレジヨ館見学の後、私たちはいよいよ世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の最重要な構成資産の一つである崎津の集落を訪れました。注目するべきものは2つありました。それは崎津教会と崎津の独特な漁村風景です。後者についてはのちほど飛永さんが紹介してくれるので、私は前者の崎津教会のついて書きたいと思います。

 

崎津教会はカトリック浦上教会や大江教会の設計・施行に関わった鉄川与助によって設計されました。現在の教会は1934年に再建されたものだそうです。私たちが崎津に到着し、集落のなかの小道を進むと、ゴシック様式の崎津教会が突然目の前に浮き出るように現れたことを思い出します。低い建物の多い集落のなかで、先端に十字架を付けた教会はシンボルのように目立っており大変印象的でした。

 

教会について少し驚いたことがあります。それは教会の建物の床に畳が敷き詰められていたことです。日本の生活風土のなかに教会が上手く溶け込んでいることを示す象徴的事例であると感じました。

 

崎津教会自体も印象深いのですが、関連してもう一つ面白いものが崎津にはありました。それは崎津のお寺、神社、教会がそれぞれのご朱印を一つご朱印帳に納めて訪問者へ提供していることです。仏教・神道・キリスト教がそれぞれ共存している崎津独特の生活文化を象徴しており、私も記念に頂いて帰りました。

 

崎津の信仰に関わる歴史の背景と、美しい教会のある風景は、写真だけでは分からない魅力に溢れていると言えます。天草に行くのなら、立ち寄ってみることをおすすめしたいです。

 

■ゼミ旅行 ⑤世界遺産 崎津集落

東洋史ゼミ3年の飛永莉羅です。私は古代エジプトのハトシェプストを卒論テーマとしています。

 

吉田さんのご報告に続いて崎津集落をご紹介します。ここは昔ながらの日本家屋が並ぶ集落の中央に崎津教会が建っている独特の景観を持ちながら、どこか懐かしい穏やかな雰囲気の漁村でした。

 

また、2018年7月に世界文化遺産に登録が決定した「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」を構成する遺産の一つであり、禁教下で潜伏キリシタンが信仰を継続していたことを示す集落です。漁村であるこの集落は、身近にあったものを代用して信心具とし、信仰を実践していました。アワビやタイラギなど貝殻の内側の模様を聖母マリアに見立て、さらに漁業の神ともされる恵比寿などを唯一神ゼウスに見立てていたとされます。

 

私たちは、崎津教会を崎津出身のガイドさんに解説していただき見学しました。限られた短い時間のなか、崎津資料館みなと屋の見学や特産品のお店をまわり、崎津の海風と町並みを堪能しつつ歩き、そして、全力で走りました。時間ぎりぎりに特産品“杉ようかん”を求め崎津を疾走し、優しいおばあさまのお店で1パック購入、おまけで1パック頂いてきたことは忘れられない出来事です。世界遺産になった地とそこで生活している人々の思い出や記憶、あたたかさにも触れられ貴重な経験であったと思っています。

 

■ゼミ旅行 ⑥大江教会・天草ロザリオ館・妙見ヶ浦

こんにちは、東洋史ゼミ3年の彦坂琳子です!私の卒論のテーマは「日本人漂流者の視点から見たロマノフ王朝時代のロシアの社会格差~生活文化を中心として」です。

 

崎津集落を後にし、私たちは大江教会と天草ロザリオ館を訪問しました。大江教会はパリ外国宣教会に所属したフランス人の宣教師ガルニエ神父が地元の信者さんとともに建てた美しい教会です。天草ロザリオ館は教会のすぐ近くにあり、隠れキリシタンにまつわる多くの貴重な展示物を間近に見ることができます。

 

大江教会は、ゴシック様式の重厚な崎津教会とは趣の異なるロマネスク様式の明るい白亜の教会です。小高い丘の上に建っていて大変可愛らしい外観で、教会のなかも居心地がよいです。天草の地に50年間暮らし、大江の集落の人々に「パーテルさん」と呼ばれて愛されたガルニエ神父にしばし想いをはせることができます。

 

教会の前にてみんなで記念写真を撮りました。地元の方々が名産品を販売しており、とれたての美味しいみかんジュースを頂くことができました。天草市内へ戻る帰り道に観た妙見ヶ浦の絶景も素晴らしく、天草の歴史と自然を存分に堪能した一日となりました。

 

■ゼミ旅行 ⑦世界遺産「三角西港」

こんにちは!東洋史ゼミ3年の伊藤栞織です。卒業論文では「紅茶がもたらした文化と社会の変容と影響」をテーマとしています。

 

私はゼミ旅行最後の訪問地となった「三角西港」の思い出についてお話しします。三角西港は「明治日本の産業革命遺産」として世界遺産にも登録されている場所です。オランダ人水理工師ローウェンホルスト・ムルデルが設計した明治政府の三大築港とされています。

 

この日はあいにくのお天気でしたが、港からの眺めがとても美しく、洋風の建物が並んだ景色はヨーロッパの穏やかな小ぶりの港町といった雰囲気でした。他にも、ここに滞在したことのある小泉八雲が書いた『夏の日の夢』の舞台となった「浦島屋」や、映画『るろうに剣心』の撮影場所になった「旧三角簡易裁判所」などにも訪れました。

 

地元ガイドの方や宇城市の職員の方にお話を聞くことができたのは、ゼミ旅行ならではの贅沢だと思います!三角西港の歴史や文化のお話はとても面白く、じっくりと見学したかったのですが、滞在時間が短かったのがとても残念です…。市の方から、夕方は「西港明治館」のテラスからの眺めがとても良い、とお聞きしたので、次はぜひ夕日を眺めてみたいです♪(*^^*)

 

※この日の見学の様子は宇城市のホームページにご紹介頂きました。ご関係の皆さま有難うございます!

https://www.city.uki.kumamoto.jp/q/aview/1/13760.html

 

■ゼミ旅行 番外編 熊本光葉同窓会の森下会長と

東洋史ゼミ担当教員の牧野です。今回のゼミ旅行の解散地となった熊本市内にて、参加者は昭和女子大学の光葉同窓会熊本県支部会の森下知恵子会長と昼食をご一緒する機会に恵まれました。全国に広がる光葉同窓会のなかでも熊本県支部会は若手が多くとても活発であるとのことです。森下会長も企業経営者として、家庭人として素敵なキャリアを築いておられます。会長の学生時代の思い出話に興味深く耳を傾け、東洋史ゼミの学生たちは現在のキャンパスライフを活き活きと伝えていました。お陰様でとてもアットホームな交歓の場となりました。どこへ行っても同窓の先輩の存在は心強いですね!

 

今回のブログ記事の最後を締めくくるのは、昭和女子大学からほど近い静嘉堂文庫美術館についてのご報告です。

■静嘉堂文庫美術館の見学

こんにちは、東洋史ゼミ3年の鈴木彩乃と申します。私は東洋各地におけるコーヒー受容の歩みを卒論のテーマに据えています。

 

東洋史ゼミでは博物館や美術館などの見学に行くことがあります。今回は世田谷区岡本にある静嘉堂文庫美術館について書きたいと思います。最寄り駅は東急田園都市線・大井町線の二子玉川駅ですので大学からは近いです。駅からはバスかタクシー、あるいは徒歩での移動になります。

 

静嘉堂文庫美術館は岩﨑彌之助、岩﨑小彌太の二代が集めた東洋古美術品を収蔵しています。彌之助は三菱財閥の創立者である岩崎彌太郎の弟にあたる人です。東洋文庫が彌太郎の長男である久彌の創立ですから、同じ三菱・岩崎家の収集品ということで深い関係があります。美術館はいわゆる常設展示ではなく、展覧会が開催されているときだけ開館しているようです。

 

私は見学に行くまで静嘉堂文庫美術館の存在を知らなかったので、ゼミ活動の一環としてこうした場所を知ることができたのはとても有益でした。今回訪ねた「〜生誕200年記念〜幕末の北方探検家 松浦武四郎展」はたいへん面白かったです。

 

松浦は幕末から明治初期の人物で、現地のアイヌ人と協力して蝦夷の各地を調査しました。

沿岸部だけでなく内陸部の地名をも詳細に記した地図をつくり、また北海道という名称をつくったのも彼です。とあるアニメでアイヌが注目されているなか、2019年には松浦を主人公にしたテレビドラマが作成されるようで、話題性抜群ですね。

 

松浦は探検家だけでなく、コレクターという一面も持ち合わせていました。後世に当時を語るものとして蒐集していたのだと思われます。幼少の頃から骨董品に興味があったようなので、好きなものを集めていただけという可能性もあります。

 

展覧会のなかでは『武四郎涅槃図』という絵が展示してありました。特に印象に残った作品です。これには永眠した松浦をコレクションの数々が囲んでいる様子が描かれています。

名前の通り仏涅槃図をパロディー化したものですが、囲むのは弟子ではなくコレクション品です。これを見て、師匠から弟子が教えを継いで遺されるのと同じように、コレクションが彼の示す当時を語っているのだろうと感じました。

 

長々と私感を書いてまいりましたが、正直なところ真面目アピールです。普段はこんなに色々考えたりしません。いかに被写体にならないかくらいしか考えてません(笑)。最後にその成果があらわれている写真で締めさせてもらいます。

静嘉堂文庫美術館

http://www.seikado.or.jp/

 

■むすびにかえて

再び教員の牧野です。以上、東洋史ゼミのご紹介でした。現場の生の声を伝えてもらいたく、現役のゼミ生にご執筆頂きました。これから昭和女子大学の歴史文化学科で東洋史を学んでみたいと思っている受験生、あるいはゼミの選択に迷っている歴文の1・2年生のご参考になれば幸いです。好奇心と探究心あふれる皆さんの入ゼミをお待ちしています!