『父と暮せば』映画鑑賞会を開きました!

こんにちは、戦後史史料を後世に伝えるプロジェクトです。

3月4日に井上ひさし原作・黒木和雄監督の映画作品『父と暮せば』(2004年)の映画鑑賞会をおこないました。参加した学生は3年生1名、1年生4名に計5名。

原爆から生き延びたものの、父や友人達を失い、自らも健康不安を抱える美津江(宮沢りえさん)が主人公です。心を寄せる男性と出会ったものの、生きることや恋をすることに積極的になれない美津江を、幽霊となったあらわれた父があの手この手を使って励まし、それとともに美津江の心の奥底が語られていくストーリーです。

全編を通じて場面転換がほとんどない映画なのですが、1年間プロジェクトをやってきて考えてきたこととリンクするところがたくさんあって、メンバー一同食い入るように観ました。

鑑賞後はすぐに感想交換のミーティング。みんなで考えたことをたくさん共有したので、どれが誰の感想かというと難しいのですが、席上ででた意見を列挙します。

  • 健康のこととか、将来の赤ちゃんのこと、次に亡くなってしまった親友のこと、そして最後の最後にお父さんを助けられなかったことが順番に語られているが、あとになるほど美津江にとって重い事実であり、本当に辛い心の核の部分は逆に最後の最後まで奥にしまって、言葉にすることが難しいんだと思った。言葉にできないことをかかえこむことが原爆の被害なのだと感じた。

  • プロジェクトで勉強したことを踏まえると、井上ひさしさんが本当に綿密な取材をした上で、この作品をつくったことがヒシヒシと伝わってきた。原爆や被爆の問題を考える際に、大事な論点がたくさん入っている作品。被爆者がこの作品をどのように評価しているのかも聞いてみたい。

  • 三部作の別作品の『母と暮せば』が亡くした息子への思いがなんども語られるのと比べると、美津江からお父さんへの接し方が意外とドライなのが印象に残った。『おとったん、ありがとありました』で終わる終わり方も、あっさりした印象を受けた。もう一歩深く読みとらないと分からない作品なのかも知れない。

  • 英語で被爆者を書くと「survivor(原爆からの生き残り)」とも「victim(原爆の犠牲者)」の2通りの表記があるが、今年度のプロジェクトでは「survivor」のほうしか見られてなかったという反省を先日(2月15日)の報告会でした。被爆者の話に必ず登場するのは「victim」の話であり、被爆者は常に「死者と共にある」ような気がする。死んだ人との関係をどこかで自分なりに考えていかないと、被爆者は生きていけなかったんだと言うことがこの作品でよく理解できた。幽霊と人間という構成でしか描けないところに原爆の悲惨さがあるような気がする。被爆者はみんな心の中の幽霊と話し続けているのだと感じた。

プロジェクト開始前だと読み取れなかったであろうことが読み取れたと思います。たださらに勉強すれば、さらに気づくこともでてきそう、そんな作品でした。

『父と暮せば』はより原作に忠実に演じた舞台版のビデオもあると栗原さんに聞きました。また時間をつくって鑑賞会を開きたいと思います。

我々がやっているのは学問としての歴史です。だから感想や意見を述べるだけではなく、史料をメインに歴史像を組み立てていくことが最終目標です。しかし、様々な体験を通じて、「心の感度」をあげておくと、より深く史料を読み取れるようになると思います。今日の鑑賞会の経験を踏まえて、また頑張っていきます!