【早川ゼミ】工芸・美術・思想をめぐる金沢旅行(後編) ――九谷の赤絵から、雨の鈴木大拙館へ

金沢旅行の二日目は、見る前に、まず自分たちでつくるところから始まりました。
訪ねたのは、明治3(1870)年創業の「九谷光仙窯」です。

九谷焼に線を描く

工房では、九谷焼の歴史と制作工程について説明を伺いました。ろくろによる成形から上絵付まで、一貫した手仕事によって制作が続けられています。大学でも陶器の制作を行いますが、磁器はなかなかできません。

九谷光仙窯での絵付け体験

絵付け体験では、上絵用の赤絵具を使って線を描きました。
器の曲面に、一定の太さの線を引く。実際に試してみると、筆を置く角度や力加減が難しく、職人の技術の確かさを改めて感じます。
彩色は、私たちが指定した色をもとに、専門の職人の方が仕上げてくださいます。
焼成を経て、完成は約3か月後。自分たちが描いた線に職人の色彩が加わり、どのような器になるのか。旅の後にも楽しみが残ります。


歩くこと、立ち止まること

続いて「金沢21世紀美術館」へ。事前に予約していたレアンドロ・エルリッヒ《スイミング・プール》の地下部を体験し、「コレクション展 歩く、とどまる」を鑑賞しました。

「コレクション展 歩く、とどまる」

なかでも印象に残ったのが、村上慧による「移住を生活する」の記録です。自作の家を担いで移動し、訪れた土地や人との関係を記録する活動。ドローイングや写真、映像からは、歩くことによって初めて見えてくる地域の姿が伝わってきました。

また、キッズスタジオに隣接する託児室も回廊から確認しました。小さな子どもを連れた人が美術館を利用するために、どのような環境が用意されているのか。美術教育に携わる立場から、展示作品とともに関心をもった場所です。

最後は、ジェームズ・タレル《ブルー・プラネット・スカイ》へ。正方形に切り取られた空と光を、しばらく見上げました。歩く。立ち止まる。そして、また見る。展覧会の題名が、そのまま鑑賞のリズムになっていました。

工芸が根づく町で
次に向かったのは「国立工芸館」です。昭和女子大学は国立美術館キャンパスメンバーズに加入しているため、学生たちも無料で観覧することができました。

国立工芸館の外観

開催中の「こどもとおとなの自由研究 もようわくわく²」では、陶磁、漆芸、木工、金工、染織など、幅広い分野の作品を鑑賞しました。黒田辰秋の椅子や茶器、高村豊周の花器をはじめ、どの作品からも、素材と技法に向き合う丁寧な仕事が伝わってきます。
国立工芸館は、かつて東京・北の丸公園に「東京国立近代美術館工芸館」としてあり、私も時折訪れていました。2020年に金沢へ移転してからは、今回が初めての訪問です。

 


雨の鈴木大拙館
二日間の最後に訪ねたのは「鈴木大拙館」です。私にとっては二度目の訪問でした。
展示棟から外部回廊へ出て、「思索空間」へ向かおうとした、ちょうどそのとき。雨が降り始めました。

雨の鈴木大拙館・水鏡の庭

水鏡の庭に雨粒が落ち、回廊に雨音が響きます。草木や土の匂いも強くなり、それまでとは空気そのものが変わったようでした。
音、匂い、温度、湿度。予定外の雨によって、谷口吉生が設計した建築の静けさが、いっそう深く感じられました。
前日に伺った鈴木大拙の「無」についての話も思い出されます。すぐには分からないものの前で、少し立ち止まる。何かの感覚や気配を想起させる場所・空間に感じられました。



旅の後につながった記憶

旅から戻った翌日、学生時代の友人である建築家から、久しぶりに電話がありました。彼は現在、谷口建築設計研究所に勤務し、鈴木大拙館の設計にも携わっています。ちょうど前日に訪ねたことを報告し、懐かしい話をすることができました。

「谷口製」の銘をもつ明治九谷

そこから少し気になって、谷口吉生と金沢との関係を検索すると、父の谷口吉郎は西田や鈴木と同じ旧制第四高等学校で学び、金沢市名誉市民第1号となった人物で、九谷焼窯元の家に生まれていました。
「九谷焼」と「谷口」という言葉から思い出したのが、実家にある「谷口製」の銘をもつ九谷の器です。改めて確認すると、谷口吉郎の生家である谷口金陽堂につながる作品でした。

 

 

昔から何気なく見ていた器。九谷光仙窯で体験した赤絵。雨の鈴木大拙館。そして、学生時代の友人からの電話。それまで別々だった記憶が、金沢を介して一本の線で結ばれました。

次に金沢を訪れる際には、「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」や、谷口吉郎・吉生親子唯一の協働作品である「金沢市立玉川図書館」も訪ねてみたいと思います。

学生たちの心に残った場面は、それぞれ異なるでしょう。器に引いた一本の線かもしれない。展示室で立ち止まった時間、あるいは町を流れる水や雨の音かもしれません。

そうした経験が、後になって別の知識や記憶と結びつき、何かを考えるときの点になれば良いなと思います。私自身もまた、金沢の工芸、思想、文学、建築、そして人のつながりについて、いくつもの新しい関心を持ち帰りました。

(早川)