英語で、文中を自由に「動き回れる」品詞が一つだけあります。何だと思いますか。それは動詞を修飾する「副詞」です。例えば、quicklyは、<1> John <2> answered <3>.(ジョンは素早く答えた。)の< >のどこにも置くことができます。<1>は不自然と思う人がいるかもしれませんが、以下の文章の中では自然に感じませんか。
“Mr. Smith asked the class a difficult question. Very quickly, John answered it.”
中学2年のとき、「副詞」の位置を決めているルールはないものか、英語の先生にお聞きしました。個々の英文に接して地道に確認していくしかないですね、というお答えでした。英語が好きな私は先生のアドバイスに従い、やがて、「副詞の位置感覚」が身につきました。一方、「副詞の位置は煩雑だ」という気持ちから解放されず、英語が苦手になってしまう友人もいたようです。
大学1年の英語学概論の授業で、Samuel Keyserという研究者のことが取り上げられました。1968年にLanguage (第44巻)という国際的な学術誌 (pp.357-374)において、「副詞」の「移動可能性ルール (transportability convention)」を提案したのがKeyser先生であったのです。ここでKeyserの考え方を紹介させていただきます。下の図は、説明を簡略化するために、私流に改訂しており、標準的な理論からは逸れていますので、ご了承のほどお願いします。
様態副詞(様子を表す副詞)heartily(心の底から)の基本的な位置は<3>です。<3>を起点にして、<2>や<4>には移動できますが、同じ高さの位置にはない<1>には移動できません。一方、文副詞probablyは<1>に置かれ、高さの違う位置である<2>、<3>、<4>には移動できません。つまり、文副詞は「文2」という「島」に入ることが許されないのです。逆に、様態副詞は、「文2」という「島」の中だけで生活することになります。なお、John <probably> loves the girl.と言えるのでは?と思った人は素晴らしい!ただし、この位置は、<3>ではないのです。図の中のJohnがprobablyの前に移動したと考えておきましょう。
「副詞」は、一見、自由気ままに「生活」しているようですが、自分の「守備範囲」をしっかりわきまえているわけですね。「副詞」のこのような「性格」は、まるで、「自由かつ主体的に生きる人物」のようにさえ感じます。今、思うと、「移動可能性規約」を知ったことが、その後、英語副詞研究をライフワークにする切っ掛けになっていたのかもしれません。「副詞」は、自分の守備範囲をわきまえた(身の丈に合った)行動こそが「自由かつ主体的な生き方」に結びつくのだと私たちに教えてくれているように思うのですが、いかがでしょうか。