みなさん、こんにちは。現代教養学科の小川豊武です。依然として、新型コロナウイルス感染拡大にともなう外出自粛が続いていますが、みなさん無事に過ごされてますでしょうか。今朝の朝日新聞では、全国の公立学校の7割が今月末まで休校、9割超えが夏休みの短縮を検討という記事がありました。その一方で、記事では大学については触れられていませんでしたが、都内の大学の動向を見ていると、4月下旬やゴールデンウイーク明けからオンライン授業を開始している大学が少なくないようです。私も現在、週7コマほどの授業をオンラインのリアルタイム配信で行っています。学生さんたちのITスキルの高さや通信環境の良さにも助けられ、さいわい、今のところ大きな支障なく、質量ともに対面での授業の際の学習内容とほぼ同様の授業を実施できています。
新型コロナウイルスへの対応で小中高や大学をはじめとした学校教育の今後の在り方が、いま大きな議論になっています。直近では9月入学が議論になっていますし、これからは入試の在り方も議論になってくると思います。いずれも今後の教育の在り方を左右するとてつもなく重要なトピックです。しかしながら、こうした議論の中では不思議と、もっとも重要なはずの、教育のまさに対象である、生徒や学生たちの実態が取り上げられていないように見えます。マスメディアを見ていると、アルバイトが出来なくて学費が払えず退学を検討している大学生といった個人の声が紹介されることはありますが、果たして、彼・彼女たちのような生徒・学生は実態としてどれぐらいいるのかについては、データとしてはあまり示されていないように見えます。
国や自治体、学校などの集団レベルでの施策を検討していくためには、こうした市民の声の実態を捉えていくことが不可欠です。私が同じ学科のシム チュン・キャット先生や、他の先生と一緒に担当している「社会調査」の科目は、まさにこのような、多くの人々に関わる施策などの意思決定を行うためのエビデンス(科学的根拠)を提供することを、1つの目的としています。教育の在り方について検討していくためには、教育のまさに対象である生徒や学生たちの声を捉えていくことが不可欠です。そういうことをしないで決められた施策は、大人たちにとってだけ都合の良い、自己満足なものになってしまいかねません。
さて、前置きが少し長くなってしまいましたが、今回のブログでは、こうした新型コロナウイルス感染拡大に関連した、学生のみなさんの声を少しご紹介したいと思います。新型コロナウイルス感染拡大によって社会の在り方が大きく変わりつつある現状を、学生たちはどのように捉え、何を思っているのか。以下では、教員の研究活動の紹介も兼ねて、多くの若者研究の専門家が参加している「青少年研究会」という団体で作成した、「大学生の生活と意識に関する調査」という調査票調査のデータの一部をご紹介します。この調査では新型コロナウイルス感染拡大に対する意識や行動について、20項目ほど尋ねています。今回、昭和女子大学の学生の一部にも、社会学や社会調査の授業の一環で、回答に協力してもらいました。
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【調査概要】
・調査名:「大学生の生活と意識に関する調査」
・調査主体:青少年研究会有志:辻泉(中央大学)、小川豊武(昭和女子大学)
青少年研究会HP http://jysg.jp/
・回答協力者:都内大学生(今回のデータは昭和女子大学現代教養学科の学生147名のみ)
※回答結果は、昭和女子大学や現代教養学科を代表するものではございません。
⑴新型コロナは反グローバリズムを促進するか
まず見てみたいのが、「新型コロナは反グローバリズムを促進するか」についてです。新型コロナへの対応に迫られる世界において当初から議論になっていたのが、「これほど全世界に急速に感染が広がったのは、世界のグローバル化に原因がある」というものです。グローバリゼーションが進む世界では、国家を超越した国際機関やグローバル企業が巨大な力を持ち、国境を越えた人や組織の密接なネットワークが構築されました。このネットワークはビジネスや国際交流などで大きなメリットをもたらす一方で、感染症の拡大という側面では未曽有の被害を人類にもたらすことになりました。そのため、今回の新型コロナウイルスの拡大によって、グローバリゼーションの負の側面が人々に認識され、今後は再び国家レベルでの社会体制が力を増して、ナショナリズムが強化されるといった見方があります。
それでは、こうした事態を受けて学生たちはグローバリゼーションについてどう捉えているのでしょうか。今回の調査では関連する質問として、「コロナウィルスの流行が終息しても、今後の日本は外国人の入国を制限するべきだ」という考えについて、どの程度あてはまるかについて尋ねています。
このグラフを見ると、「ややあてはまる」の回答が51人と最も多く、一見すると、学生たちは「反グローバリズム」に傾いているように見えます。しかしながら、「あてはまる」と「ややあてはまる」を足した割合は46.2%、「あまりあてはまらない」と「あてはまらない」を足した割合は53.8%となり逆転します。あくまでこの質問に対する回答だけ見ると、学生たち必ずしも「反グローバリズム」には傾いておらず、冷静なスタンスを取っているように見えます。
⑵「自粛警察」に対する評価
次に見てみたいのが、いわゆる「自粛警察」に対する評価です。日本の新型コロナへの対応でしばしば指摘されるのが、諸外国のような強制力の強いロックダウンを実施していないという点です。それが可能になっている理由として、日本文化ならではの同調圧力によって、必ずしも政府による強制がなくても、市民が自分たちで進んでルールを守ろう、という意識が働いている点が挙げられます。その一方で、こうした同調圧力によって、「自分は外出や店舗の営業を自粛しているのに、あの人は自粛をしていない」といった批判が高まっています。インターネット上では、そうした動きが「自粛警察」と呼ばれ、議論を呼んでいます。こうした「自粛警察」については、学生たちはどのように捉えているのでしょうか。
このグラフを見ると、「不要不急ではない外出をしている人は批判されても仕方がない」については、77人が「あてはまる」と回答しており最も多い結果となっています。その一方で、「休業要請が出ているのに営業している店舗は批判されても仕方がない」については、「あてはまる」と「ややあてはまる」が多いことが確かですが、最も回答数が多いのは「あまりあてはまらない」という結果でした。ここから、「自粛警察」に対する学生の評価としては、“外出自粛には厳しく、店舗休業に対しては寛容”というスタンスが浮かび上がってきます。
⑶「新しい生活様式」に関する意識
5月中旬現在の国内の動向を見ていると、新型コロナウイルスの感染拡大は沈静化の兆しを見せ始めているように見えます。しかしながら、多くの専門家が、再び感染が拡大して第2波、第3波が来るを警戒しています。こうした警戒はしばらく続く可能性が高く、いわゆる「三密」を防ぐといった行動様式は、長期的に継続される必要があると見込まれています。感染拡大が収まってきたからといって、以前の生活を取り戻せるとは限らず、これからはこのような「新しい生活様式」を定着させていく必要があると言われています。私たちはもはや、コロナ以前の生活を取り戻すことは、諦めないといけないのでしょうか。こうした「新しい生活様式」については、学生たちはどのように捉えているのでしょうか。
このグラフを見ると、「あてはまる」と「ややあてはまる」と回答した割合が83%と圧倒的な多さを示していました。私のような中年の教員には、長年かけて沁みついてしまったライフスタイルを変えるのは正直厳しい、と弱気に思ってしまう面もあったのですが、学生たちはコロナ以降の新しいライフスタイルに対して前向きで、柔軟なスタンスを示しているということが分かりました。
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今回の調査では他にも多くのコロナウイルスに関連した質問をしています。また機会があればご紹介したいと思います。新型コロナウイルス禍の中、学生のみなさんは何を思い、どのように立ち向かおうとしているのか。当事者不在の議論に陥ることのないよう、今後も注視していくことが重要だと思っています。
小川豊武