【教員コラム 天笠】消費されない勇気

大学で「ソーシャルメディア」を専門に教員をしていると、学生から「どうやったら、発信する情報をバズらせることが出来ますか?」と聞かれる事がある。

もちろん、例えば…「まずは、共感性を重視して、その中に意外さを盛り込んで、それをトリガーに、ハッシュタグとかも活用しながらシェアを促して…」といった具合に、一般論としてその疑問に答えることも可能だ(といってもグーグルとか生成系AIに聞いた方が懇切丁寧に教えてくれそう…)。そして、多くの特に大学に入ったばかりの学生たちにとっては、それが「求められている答え」なのだろう。

でも、そんな時、天邪鬼(あまのじゃく)な社会学系の教員としては、思わず問いたくなってしまう。「それ、本当にバズらせるのが正解ですか?」と。

一見、何の関係もない話で恐縮なのだが、最近、TOMOO(ともお)さんというミュージシャンにはまっている。はまっている要素は色々あるし、音楽は好きだが詳しくはない。なのでうんちくを語るのはやめたいのだが、ただ、シンプルに11月にMVが公開された「Lip Noise」という曲には衝撃を受けた。この曲、一瞬すべての音がフェードアウトして無音になる瞬間があり、そこで曲調が一気に変わる。1曲の曲なのに、章立てのある小説を読んだ気分にさせられるのだ。

その分、長い曲になっていて、この記事の執筆時点(2026/1/18)で、BillBoardのJP HIT 100で、no1となっている米津玄師さんのIRIS OUTは2:30ほどなのだが、なんとこの曲はその2倍の5:11もある。短い曲が全盛の昨今において、この長さは驚異的だ。ただ、曲が変化に富み美しい表現も盛沢山なこともあって、思わず最後まで聞いてしまう。というか、私は、ほぼこの曲しか聞かない日があったり、極度のヘビーローテーション曲になってしまった…。

お前の趣味など聞いていない!とお叱りの声を頂くかもしれないが、ここでTOMOOさんの話を出したのにはちゃんと理由がある。この曲、バズりにくいのである。

この曲の魅力は、豊かな曲の展開とその各所で紡がれるTOMOOさんの繊細かつ鮮やかな表現にあり、その魅力を伝えようとすると、拡散が容易な部分の「切り抜き」では、それを伝えることができないのだ。ちなみに、Aパートから無音をはさんでBパートまで行くのに、アンビエントな音しかない部分があるのだが、それだけで30秒ある。こんな曲を切り抜くのは無理だ。(そして、よくこの曲をMVにしたなと思う。)同じように2つの曲調の異なるパートを、LIP NOISEと違い瞬時につなげることによって、バズって流行語大賞にまでノミネートされたM!LKの「イイじゃん」とは似ているようで対照的だ。(イイじゃんが悪いということではもちろんなく、戦略性・目指す方向の違いだと理解している)

では、バズらないことはいけないことなのだろうか。必ずしもそうではない。特に、インターネットに消費され、ネット上の盛り上がりの燃料にされて、一瞬で消費されてしまうこのご時世の中では、如何に、一瞬で消費されずに、長く熱量を持ちづけることができるかは、独自の価値を生み出す上では、非常に重要なポイントとなる。

こんな話をしていると思いだされるのは、私がフィールドにしている魚沼の緑川酒造の大平社長から聞いたお話だ。大平社長は、ゼミで行ったインタビューの際に「如何に(一過性の)人気を出さないか」気を付けている。とお話されていた。地方の小規模な造り酒屋にとって、一過性の人気は害にしかならないというのだ。確かに、人気が出たところで、地方のモノづくりでは、一気に生産量を増やせる体制も設備もない。そして何より、昔から緑川を愛して、お酒を待ってくれているファンにお酒が届かなくなってしまう。緑川は、地元に本当に愛されているお酒で「なくなっては困る酒」なのだ。(魚沼における緑川の重要性は、魚沼市出身のおばたのお兄さんのネット記事に詳しい。)

ただし、アーティストもお酒も売れなければ生きてはいけない。バズらないのであれば、バズらずに売れ続ける必要があるのだ。それを実現するには本当の意味で「中身」が必要になる。緑川は最新の設備なども導入しつつ、その味を守って変わらぬ支持を得続けているし、TOMOOさんは、気鋭の新人扱いされることも多いが、実はインディーズまで含めると、アーティストとしてのキャリアは約10年になり、蓄積してきた確かなものがある。

長々と半分趣味の話をしてしまったけれど、大学という学びの場で得るのは、一瞬で消費されてしまう何かではなくて、自分の中に積み重なる「中身のある何か」…例えば、答えのない問題をクラスメイトと議論しあう時間であったり、よくわからない社会学の理論書をわからないなりに読もうと何度も読み返してみたり…であってほしいなと、TOMOOさんの曲を聞きながら、ぼんやり考えている今日この頃だ。

現代教養学科 メディア創造領域担当 天笠 邦一