楠への願い

これは、キャンパスのプロムナードにある木の幹を事情があって、3月に切った折の写真です。年輪が見事ですが、同時にこの木の歴史を伺い知ることもできます。年輪の幅が他のところと著しく違っている部分は、きっと日照の向きや量が変わった、つまり、移植された可能性が高いのではないでしょうか。幹を伐採しなければならなかったのは、とても残念でした。樹齢、何年くらいだと思いますか。たぶん60年以上は経っているのではないかと聞いています。

歴史をひもとけば、世田谷キャンパスに初めて楠の苗木が植えられてから今年で72回目の春を迎えています。戦火で焼失した上高田の緑が丘からここ太子堂にやっとの思いで移転して、半年後の昭和21年5月のこと、美しい緑を育て後輩たちの憩いの場となるようにと、卒業生のお宅から100本もの小さな楠の苗木が届いたのです。一本一本、心を込めて植えた先輩たちの願いの通り、楠は嵐や雪に遭っても、そしてやむなく移植されても、昭和で学ぶ児童、生徒、学生を力強く見守ってきてくれています。

プロムナードに移転される直前は、初等部前の広場にありました。こども園の建設のために今の場所に移転されたのです。ところが、移転のためにクレーンでつり上げる時に、幹に巻いたロープで楠の表皮を剥がしてしまいました。表皮には根から吸い上げた水を上部の枝葉に送る機能があり、大変な打撃だったことでしょう。しばらくは樹勢を保っていましたが、最近、徐々に枯れが進行し、これ以上そのままにしておくと、大枝が落下するなどして大きな事故につながりかねない状況となってしまいました。

そこで、ウッドデッキから1.5メートルほどの高さのところで伐採し、その切り口から萌芽がでてくるように蘇生手術を施したそうです。萌芽がでても樹木として形ができるのは、20年以上先のことのようです。

そして、嬉しいことに、既に新芽が芽吹いてきました。

ウッドデッキのこの楠を皆さんで大切にしましょう。いま在学中の大学生が卒業して40歳代になる頃、樹木へと成長し、皆さんの後輩たちに心地よい木陰を作ってくれているといいですね。